「お兄ちゃんとシャハラは、どうやって出会ったの?」

ごまかしたっていい。
けれど、それは如何なものか。
ああ…と言葉を詰まらせ一瞬頭を悩ませる。マリアムの大きな瞳が興味できらきらと動く。
美しい花々の咲く庭園で眠っていた私に一目惚れした彼が口付けて起こして恋に落ちたのならどれだけよかったことか。
そしてお互いに運命の相手であることを確信し、結婚に至ったいうことであればとても素敵なのに。

…いや、そうじゃないな。
私は彼とあの出会いでよかった。出会えてよかった。
一緒にいられて幸せだ。それ以上に何があるというの。

ふっと笑みを漏らしてあのね、と語りはじめる。

街の中でも割と有名な商人の娘が私だった。
とはいえ言うほど裕福ではなかったがそれなりの暮らしはしていた。
カシムはそんな私達のところで働きたいと言ってきた一人で雇われた。
スラムで生まれ育った事は知っていたが特に気にした事はない。
だって生まれや育ちではなくて今その人自身が何を出来るかが一番大切だろうから。
どうして惚れたのかよくわからないけど気付けば私はカシムが好きになってた。
好きで好きでたまらずよく知らないマリアムだとかザイナブだとかそんな女の名前にいちいち拗ねた。
くだらないことで言い合って喧嘩して私が足を出すと彼は手を出した。私が泣いたら彼は謝った。
年齢も近いからか私の一方的な好意があったからか、カシムと私は仲が良かった。
カシムと仲良くする私を父はよく思わなかった。一人娘の私に幸せになってほしかったらしい。
どこかでよく知らない大商人の息子と見合いの席を取ってきた。泣きじゃくって声を張り上げて父に反抗したが駄目だった。
どんどんと話が進んでその見合いの席に顔を出したは良いが何かでふたが外れて泣きじゃくってその場を飛び出した。
そんでもってカシムの所へ行き理不尽に罵声を浴びせて殴りつけ止めにこいよこの馬鹿野郎と言った気がする。
カシムは泣きじゃくる私に殴られた事が不愉快だったのか頭を叩いた。それから馬鹿だろお前と罵る言葉が続く訳だ。
その後に、最後に、よかったと。私を抱きしめて彼が言うものだから。私は抱き返してやっぱり泣いた。
そしてもうこいつを離してやるものかと。一生縛り付けてやろうと思った。何があっても私が傍にいようと。

茫然としていた父はついに折れて、娘が幸せになるならばと認めてくれた。
その代わり二人ともよく働いてくれよと。

「…婚礼を邪魔しに行ったとかなら素敵なのにねぇ」
「そうだよねぇ、シャハラは俺のものだから離せよ!みたいなね」
「きゃーっ!言われたーい!勝手に離れるなよ、とか!」
しばらく二人できゃあきゃあと騒いだ後、ふとマリアムが言う。
私のお腹を撫でて男の子かな、女の子かな、と嬉しそうにそう言った。

「どちらにしても、カシムとはお花畑で出会った事にする。そして私は彼の口付けで目覚め、運命の相手として惹かれあい結婚に至ったのです」
「…なんか、おとぎばなしみたい。いくらなんでも変だよそれ」
首を傾げてそういうマリアムに笑って見せる。
そうだな、本をたくさん読んであげよう。
くだらない夢みたいな物語を書いたやつを。

「いいのいいの。夢があるくらいがいいじゃない」
彼と出会ったのは私なんだから、私が知ってさえいればいいんだ。

『多分、俺お前の事好きなんだろうな』
『…たぶん、って…っなによぉ…』
『あー…好き、すげぇ好き、大好き』
『うわああん、ばかぁ、カシムのばかぁ、好きだこのやろぉ』

幸せな家族になろう。
そして素敵な恋をするがいいさ!