(あ、泣いてる)

彼女の中で一番印象強いのは笑顔だ。
余裕に満ちた満足そうな笑み。
人を見下して小馬鹿にしたような笑顔。
口を開けば憎まれ口ばかりで。
何か不満があればすぐに顔に出す。
思い通りにいかないと気が済まない。

自分もそれなりに頑固で気が強いという自覚はある。
けれど自分が思いつきもしないような行動に出る彼女に最初は興味を抱いた。
立場上当然ともいえるけれど彼女は私を嫌っていた。それを隠しもしない。
挨拶をすれば嫌味を返されたし近づくだけで眉をひそめていた。
じゃあ私が大人しくすればいい。それだけだ。関わらなければいい。

だけどいつも余裕綽々の彼女が屈辱を受けた時はどんな顔をするのか。
絶望に打ちひしがれたらどんな風になるのかとても興味が出て。

他人に興味を持って知りたいと行動する事が恋愛だと言うのならばこれはきっとそれにあてはまる。
今だって彼女がどんな声をあげるかどんな反応をするか気になって仕方ないんだから。

相手の白い耳元に口付けてから耳朶に噛み付いて舌を這わせる。
高い声で喉を震わせて拒否するような声を出していやいやと首を振る。
泣きだしてしまった彼女は細い腕で私を押し返そうとするも力が入らないらしい。
小さな体を寝台に押し付けたまま衣服越しに胸に触れるとさっきよりも大きく声を出した。

「いっや、ってばぁ…んっ、はなして、」
「さっきからそればかり。どこならいいの?」
白い首筋に唇を寄せて露になってる鎖骨に噛み付く。
ふと顔を埋めたまま見上げた彼女は泣きながら私を睨んでいた。
強情というか頑固というか、気が強いのには変わりないけれど。
私の肩辺りにある彼女の小さな手は震えてる。

「っばか、じゃないの…しねっ…へんたい」
「同じ事を繰り返して他の言葉を知らないの?」
しねと彼女が再び繰り返してきた辺りで彼女の片足を肩に担ぐ。
びくりと反応した彼女はぼろぼろと泣き出して嫌だなんだとわめく。
私は彼女の足を抱えたまま白い滑らかな足の付け根辺りに舌を這わせた。
強く吸いつくと痛いだなんだとうるさかったし子供みたいに泣いてた。
赤い痕がついたことに満足感を覚えて泣きじゃくる彼女に強引に口付けた。
薄い唇を割って舌を差し込んで吸いつく。
なんて事をしばらくしていると舌を噛まれた。

「っしね、ばーか、さわんな」
私が思わず離れると彼女はそう言った。
すぐに体を起して乱れた衣服をぎゅっと握りしめて。
なんて事をするのと言ってやり返してやろうと思っていたのに。
生まれたばかりの猫か何かみたいな彼女の態度にやる気はそがれた。
本来ならば改めて捉えてその白い腹切り裂いてやってもいいのに。
ぐちゃぐちゃした汚い、中身を撒き散らして見てやりたいのに。

「…ごめんなさい」
まだ泣いてる彼女の頭を撫でようとしたら手を振り払われた。
触らないでと凛とした声が響いた。

「また来るわ」
最後にびくりと彼女が体を震わせたのを知ってる。
忘れてなんてやらない。
ぐしゃぐしゃに泣きながらしね、と震える声がそう言ってた。