父と妻である女との間に生まれた正当な皇女で。
父が皇帝になって一番喜んだのは私で。
それなのに前皇帝の娘が第一皇女にだなんて。
その女の母親を年増の女を妻にだなんて。

私の立場は一体どうなるんだ。

妹が言う。
異母姉妹の私に劣る生まれの彼女が言う。

ああ、可哀想に!
貴女よりも美しく優しく気高いあの人にとってかわられてしまうなんて!
当然だわ。ざまあみろ!

私と同じ赤い瞳で私を見つめてけらけらと笑って。
それはそれは愉快そうに笑いながら彼女は言った。

晴れて第一皇女となった練白瑛は聞いた通り美しい人ではあった。
あったけれど、彼女は結局のところ前皇帝の娘なんだ。
正当な、皇女ではないのだ。

一体私は何をそんなにおそれていたのだろうか。
来るべき時は多少の変化などものともせずに当然のようにきた。
私がそれなりの年齢になった頃、婚儀の話が来た。
第一皇女である白瑛もいい年齢なのに彼女にはいかない。

皇女なんて、結局は国の為、政治の為の駒でしかない。
女であるのを武器にするしかないのに、白瑛にはそれすらないんだ。
ざまあみろ。
一生煌に閉じこもっていればいい。

羨ましくなんかない。
もう二度と煌に戻ってこれないかもなんて。
寂しくなんかない。
故郷を離れるのが、家族と別れるのが、寂しいなんて。
そんな事ない。あってたまるか。

結局、私が第一皇女であろうと第二皇女であろうが運命は変わらないのだ。
よく知りもしない相手に嫁いで体を交えて子を産んで祖国の繁栄を祈るだけだ。
それだけだ。

「シャハラ、聞いたぞ。明日だと」
感傷的になった訳ではないが最後だからと屋敷内をうろついていると声がかかった。
紅炎だ。第一皇子の。
相手が誰であろうと私の行動は変わらなかっただろう。
挨拶もそこそこに彼に近づくとぶっすりと不機嫌そうな表情をして話しかける。

「ええ、そうよ。嫌になるわ。20くらい年上だって聞いたわ」
私の愚痴はとても理不尽だ。
当然だとも言える妥当な年齢の相手に対してこうも不満を抱くだなんて。
だけど、よく考えてほしい。
こちらはまだ純潔の生娘で、蝶よ花よと育てられた箱入り娘だ。
それをよく知りもしないこれから老いる一方のじじいと結婚、そいつのものを受け入れて子を産まされる気分を。

「何だ、不満そうだな」
「今だけね、すぐ慣れるでしょう。皇帝の娘ですもの。国の為の道具よ、ご立派でしょう」
そう言って私が笑うと彼も笑う。
ああ、やかましい笑い声だ。
同情されたって気分が滅入るだけなんだけど。

私も、男だったらよかった。
男だったら、良かったのに。

「どうした、今日は随分と喋るじゃないか」
「良いじゃない。あちらじゃ慎ましい妻にならなきゃいけないんだから。今くらい」
そろそろこいつとなんかの会話は終えて準備でもすべきだろうか。
準備なんてのはただの口実で別段することもないが彼はさっさと離れたかった。
心をかき乱される。
羨ましい、恨めしい。ああ、どうして。

「別に悪いとは言ってない。泣かないのか」
何を、泣けと。