彼について考えてみようと思う。
好意を抱く相手であるし考えることは別に苦ではない。
そして私は暇で何もすることがない。
何もすることがないからこそ私は暇だと言える。
そんな訳で時間を割くのが惜しいと言う訳でもない。

さて、彼についてだ。
彼は私の指を口に含むことがある。
ちうちう吸ったり優しく噛みついたり舐めたりする。
指の腹に歯を当てて爪の上を舌でなぞる。ちゅう、と音を立てて吸い付き、唇をはなす。
理由はわからないけれど恥ずかしいし人の生暖かさがくすぐったく感じてしまう。

後、肩辺りに噛みついたりすることも。
これには容赦なく肉を千切るような勢いで歯を立ててくる。
鬱血したり皮膚が切れる時もあるし、とにかく痛い。痛くて仕方ない。
何度か止めてくれと掛け合ったことがあるのだが、彼は無意識らしい。
行為に熱中するあまり、ということらしいが私は残念ながら被虐趣向ではないのでやめてほしい。

それから眼球を舐めてくる。瞼ではなくて、眼球を。
瞼に口づけて目の縁に舌を這わせて怯える私の薄い皮膚をそっと押し上げて。
眼球にちろりと生暖かいものが触れて叫ぶ私にようやく彼は我に返る。
これも痛いし怖いので止めていただきたい。

一番の問題をあげようか。
彼は血を舐めるくせがある。
泣きそうな顔をして刃物を持ち出すことがある。
私の足に刃物を当てて薄い皮膚をそっとさく。
たらりと液体が皮膚を滑りべったりと血がつく。
流れ出る血液を付着した血液を彼は舐める、飲み込む。
人の血だなんて見ていて気分がいいものではないと思うのだけれど。

彼が何を考えているのかはわからない。
けれど好きだなんだと伝えてくる辺り愛されているのだろうとは思う。
全て仕方がないと諦めて受け入れているのは私も彼が好きだから、だろうか。

(ああ、なんだ)

「シャハラ」
彼が泣きそうな顔をして私の名前を呼びながら笑みを見せる。
眉を下げて口の端を上げて瞳を潤ませた彼は鈍く光る銀色を握りなおした。

囚われたのはどちらだ。
貪り食らう食われる。

「ジャーファルさん、」