出会いや馴れ初めに興味がある人には申し訳ないけれど省かせてもらう。

寝台の上で寝そべる自分の膨れた腹を撫でる。
目を伏せると自分の心音と共に小さく動く何かを感じられて頬を緩めた。

「お父さんは、いつ帰ってくるんでしょうね」
お腹に手を当てたままそう言った。
もちろん返事なんてないし答えも帰ってこない。
だけど気分良くなった私はお腹の中にある小さな命に向かって話しかける。

貴方のお父さんは可愛い顔してるのに口が悪くて、お母さんも何度も喧嘩したのよ。
でもね、お母さんはお父さんの事とてもたまらなく好きだったから離れられなくて。
そうだ、お父さんは王子様とお友達なのよ。お父さんには負けるけど、素敵な王子様よ。
貴方と早くお話がしたい。手を繋いで笑い合ってちゅーでもしましょうか。
三人でたくさんお出掛けをしようね。いっぱい楽しい時間と思い出を共有しよう。
男の子かな、女の子かな、何色が好きかしら。どんな服が似合うでしょうね。名前はどうしよう。

「間抜け面」
目が覚めたのは日が暮れた頃。
灯りを灯されて徐々に意識がはっきりした。
いけないいけない。いつの間にか眠っていたみたい。
私が寝台からそろりと立ち上がると帰ってきていたカシムが近寄ってくる。
カシムが私の頭を撫でて髪を梳くように触れた。
それから頬をつねるようにぎゅっと掴んできた。
痛い痛いと私が言っても彼は放す気がないようだ。
怠け者と事実故に私を深く傷つける言葉をはいてきた。なんて奴だ。

「聞いて、お父さんはこうして私を苛めて楽しんでるのよ」
カシムが私の言葉を聞いてぱっと手を放した。
そして慌てたように屈んで私のお腹の辺りに顔を近づける。
それからそんな事はしていないお姫様みたいに扱ってるだとか何だとか。
何だかとてもおかしくて声をあげて笑ってしまった。

「そうよ、お父さんはとても優しくてかっこよくて素敵な人なの。私の王子様だから貴方にはあげられないわ」
再び寝台に腰掛けてお腹を撫でながらそう言った。
ふと見上げればちょっと照れたような顔をするカシムがいた。
首に腕をまわして口づけを強請りながらお帰りなさいと。
彼は笑みを浮かべてただいまシャハラと世界一美しい声で私を呼んだ。

ねぇ、早くおいで。
この素敵な世界を貴方にも見てほしいの。
世界一素敵な男の人はもう私が捕まえちゃったけど、それがお父さんだなんて素敵でしょう。
待ってるから、早くきてね。

命を孕む
(この世界に)