むかしばなしをしようか。

私と弟と父と母と仲良く暮らしていた。
父は見た目と裏腹に心優しい領主だった。
だからこそその地は荒れていたんだと思う。
母は優しく好奇心旺盛で美しい人だった。
二人はとても仲が良くて私もいつかそうなるのだと思っていた。
誰か愛する素敵な人と仲睦まじくいつまでもと。

ある日、弟の先生を名乗る人が現れた。
これから大きくなって領主になるであろう弟に教育を、とやってきた。
私は特に何も疑問を抱かなかった。
ただ、弟としばらくは遊べないのかと思うと少しだけ寂しかった。それだけ。

ある日その先生が私に言う。
貴方は遠く東にある小国に嫁ぐのだと。
故郷を離れるのが、家族と別れるのが寂しくて寂しくて私は泣いた。
だけど祖国の為にとそれを受け入れて。
一度その国を見にと故郷を離れた。

東の地は争いが多いと聞いていたが私の行った時期は丁度落ち着いていたのか穏やかだった。
本当にこの国に嫁ぐのはもう少し先になるがご挨拶をとたくさん引き連れた従者達とした。
悪いところではなさそうだと、少しだけ安心した。

再び故郷に戻ると父と母が死んでいた。
先生が、言う。
街の人に刺されたのだと。何か恨まれるような事をしたのだろうと。
残念だ、嘆かわしい、と彼が言う。
顔を隠した彼がそう言っていた。

葬儀の中で私は泣いた。
どうして故郷を離れたんだろう。
せめて、最後の時くらい一緒にいたかった。
私の婚儀を見に来て欲しかったのに。

弟は泣かない。
私のいない間にたくさん泣いたんだろう。
強い子だと思った。私も頑張らなくてはと。

国王様からの知らせはすぐに来た。
幼い弟が次の領主であると。
私の婚儀も目前の時だった。

先生が言う。
私に言う。
私がいるから、貴方は自分の使命をと。
弟の傍にいたかった。だってあの子はまだ小さい。
私が傍にいなくては、と。

あの子が言う。
笑って私に言う。
心配しないで、大丈夫だからと。
強い子だと思った。私も頑張らなくてはと。
後ろ髪引かれる思いのまま私は故郷を去った。

泣きたくなった。
泣かなかった。泣いてはいけないと思った。
強くならなくてはと。頑張らなくてはと。
一人で。

長い昔話はこの辺にしておこうか。

最近の話をすれば故郷を一目みたいと言うモルジアナを見送った。
途中まで一緒に行かせようとその旨を伝えて隊商に彼女を頼んで旅立ちを見送った。
私の手を取った彼女は少しだけ泣きそうで、今までありがとうございましたとそう言っていた。
お礼を言われるような事は何もしておらず、むしろ恨まれたって仕方ないのに。
何処までも心優しい彼女の旅がどうか困難の無いものであるようにと思う。

迷宮を攻略した少年、アリババくんは最近チーシャンを出た。
チーシャンを発つ前に大量の財宝を私に押し付けるとなんだかんだと語っていた。
肝心の何処へ何をしに行くか、というのは聞かずじまいでさっさと彼はいなくなってしまった。
本当は私も伝えたいことがあったのだけれど追うまではしなかった。

一番大切な事であろう私の可愛い弟は仕事に手を出すと不機嫌そうにする。
不満げに何かを言いたそうな顔をするが私が彼を抱きしめ頭を撫でると結局何も言わない。
困ったように照れたように笑って止めて姉さん、なんて言う。可愛い。

予定よりも長い間チーシャンに留まってしまった。
本当はジャミルの顔を見たらすぐに戻るつもりだったのに。
彼が迷宮なんて危険な場所に行くからだ。

そろそろ煌に帰らなくては。

嘔吐する。
(吐き出すものが何もないの)