久々に泣きそうになった。
全力疾走、大絶叫。

世界を見ても私にここまでさせるのは彼くらいだろう。

「助けてくれてありがとう」
あんなに大きな迷宮はあとかたもなく消えた。
モルジアナとゴルタス、そして私の弟のジャミル。
見知った人物は傷こそあるものの迷宮から無事に戻ってこれた。

「アリババくん」
命の恩人である少年は大量の迷宮からであろう宝物を抱えて私を見ていた。
ぼんやりとした様子で頭をかいてはっきりしない口がもごもごしてた。

そんな彼を引きずるようにして5人で領主の、ジャミルの家へと帰った。
久々である故郷の地の家。だけどゆっくりくつろぐなんて事はしばらく出来ないだろう。
家へとつくと使用人たちがざわめいて駆け寄ってきた。

そこからはもう淡々と。
怪我をしている彼らの手当てをお願いした。
そして何があったのかを一応耳に入れて。
精神的なショックか何かで気を失ったジャミルを寝かせる。
そして可哀想な可愛い彼が気を失ってるのを良い事に私はやりたい放題だ。

奴隷の鎖を切って解放。
身の振り方が決まるまでは使用人として雇う事にした。
抗議の声が上がらない訳じゃなかったがそこはのらりくらりと。
私に力があるとすればそれは財力だ。惜しんだって仕方ない。
それに私が領主だったらこうしてた。可愛い私の弟だって聞き入れてくれるだろう。

仕事も出来る分は勝手にやった。
周りの手伝いもあったから苦ではなかった。重要であろうことは流石に手をつけなかったけど。
一段落ついたころ、妙に時期が良かった。
ジャミルは目を覚ました。
それはそれは不機嫌そうに。 むっつりと。

「姉さん、勝手」
不機嫌そうに寝転がって私の衣服を引っ張るジャミル。

「知ってるよー」
「僕だって考えがあったのに」
わしゃわしゃと彼の髪をかきまぜる。

「そうだろうね。でも今くらい私の言う事聞いてなよ」
「何それ」
彼の髪をかきまぜるのに飽きて手を握り締めた。
しっかりした男の人の手だなぁ、と思う。

「ねぇ、何か欲しいものある?持ってこようか」
不機嫌そうな表情の彼はそれを隠しもしないで。

「何もいらないよ」
強く手を握り返してくる。

「だから傍にいて」
本当は文句の一つもあるでしょう。
私だってあるんだから。貴方も。
お互いにお説教するのはまた今度ね。
難しい、嫌な事は後回し。

今は一緒に眠ろうか。

嘔吐する。
(本音を我慢できないの)