幼い頃の話だ。
ある日、熱が出た。熱は下がらなくて、真夜中までうなされた。

真夜中、真っ暗な中、誰もいなくて、苦しくて辛い中、一人。
不安で涙がこぼれた。拭ってくれる人はいなかった。

何故だかはさておき自責の念が私を取り巻いた。
私は生まれてきてはいけなかった。生まれたのが間違いだったんだ。
そうじゃないと否定する人間こそが間違ってる。一人の人間が生きる為に他の大勢が犠牲になってるんだ。
その人たちの将来を、可能性を、全部奪う程の価値がある訳でもないのに。

死にたいと思った。
このまま死んでしまえれば、と。

私の手を握り締めて。
私よりずっと低い体温の肌が触れて。
押しつけられた額がひどく気持ちよく感じだ。
いよいよ止まらなくなってきた涙が温い。
彼の吐く息を吸い込むような距離。
頭の中に彼の声が近いからか響く。

「姉さん」
しばらくぶりに彼の声を聞いた。彼の顔を見た。
ずっと先生とやらに彼を奪われていたから本当に久々に。

「具合が悪いと聞いてとても心配したんだよ」
手を握り締めたままくっつけていた額を離して彼が言う。
思ってたよりもずっと優しい声だった。

「薬を持ってこようか。何か欲しいものはある?」
ぐしゃぐしゃと髪をかきまぜられる。
思ってたよりもずっと優しい言葉だったからだ。
だからこうも情けない言葉が出てくるんだ。

「いらない、いらない、何もいらない」
涙が拭っても拭っても流れてくる。
いつもずっと年上ぶってお姉さんぶってた自分ががらがらと崩れた。

「だから今日は傍にいて」
何を気張っていたんだろうか。
本当はずっとこうしたかった。
地位とか立場とか関係なく。
普通の姉弟みたく仲良く話をして名前を呼んで傍にいて、

「そうだね、一緒に眠ろうか」
握り締められた手が嫌じゃなかったから。
今思えば家族であるにしろ年の近い男女が一緒に眠るなんて。
とてもはしたないと思うのだけれど幼い私はそんな事に気付きもしなかった。

「ジャミル」