好奇心は色々と殺す。 精霊をもらった。 手のひらサイズの小さな女の人みたいだった。 肌が真っ白で可愛い。 ぴぃぴぃと小鳥みたいに鳴く。 肌がすべすべしていて気持ちいい。 やっぱり何を言っているかわからない。 最初は裸だったのだけれど従者の誰かが着物を作った。 こんな小さなサイズに合わせてつくるなんてえらいと頭を撫でてやった。 中庭で散歩をさせてやろうと放してやると嬉しそうにてしてしと歩いた。 そして花の向かいでしゃがむとじっと見つめてよりよしと花弁を撫でてた。 木にも興味があったのかじっと見上げ可愛い声で鳴くとがしっ!とつかんだ。 そして登ろうと頑張るものの上手くいく訳がなくて。 しょんぼりとした姿が可哀想なので一番低い枝にではあるが乗っけてあげた。 ぱっと嬉しそうに表情を明るくすると小さな顔が近付いて僕に口づけた。 お礼のつもりだろうか。よしよしと小さな頭を撫でてやる。 そしてしばらく木の上からにこにこと笑って色々と眺めていたが降りたくなったのかじっと僕を見つめていた。 放っておいてやろうかとも思ったがあんまりにも可愛いので降ろしてやることにした。 「シャハラ」 名前をつけた。 この子はシャハラだ。二代目。 頭が良いのかすぐに理解をした。 そして嬉しそうに笑っていた。良い子だ。 ところで精霊であるからか、よくわからないけれど裸体を晒すのに抵抗がないらしい。 小さな器に湯を張って湯浴みをさせてやるととても喜ぶ。 その際に別に裸で足を広げようと何をしようといつもきょとんとした顔をする。 けれど、こちらとしては小さいながらもろに女性の体で、それも美しい女性ときたから少し照れてしまう。 だめなんだよ、と教えると理由はわからないにしろだめなんだということは理解したらしい。 湯浴みや着替えの際には気をつけるようになった。 小さな体に顔を近づけると花みたいな良い匂いがした。 後、なんか死臭みたいなのが。 いくら浴槽に入れても変わらない。元々の臭いなんだろうか。 残念だと思う。こんなに可愛いのに。 シャハラは食事を取らない。 水だけは飲む。 それだけであんなに元気なんだから不思議だ。 肉を口元に近づけるとぶっすりと口を閉じていやいやと首を振った。 「ごめんね、シャハラ。怒らないでよ、ね、機嫌を直して」 事の発端はこうだ。 彼女が喜ぶから中庭を散歩させて木の上に乗せてあげた。 それを飽きることなく僕も見ていたんだけど楽しそうだと笑う炎兄の姿を見て駆け寄った。 それから会話をしてお茶を飲んで鍛錬にも付き合ってもらった。 その間、シャハラの事なんてすっかり忘れていた、という訳だ。 流石精霊というか彼女は死にはしなかった。 人間だって一日放っておかれたくらいじゃ死なないが。 だけど、機嫌が悪くなったのかぶっすりと不機嫌そうに。 また理由は分からないが具合が悪そうに見えた。 心配になって声をかけるが返事はしない。 相当怒ってるんだろう。謝ってるのに。 水をあげると元気になったが機嫌は悪いままだった。 彼女の機嫌はさておきしばらく水をあげないとどうなるんだろうか。 枯れるんじゃないかと誰かが言う。枯れて、干からびて、死ぬ? 精霊なのに、そんなに呆気なく死んでしまうのだろうか。 気になった。 気になって仕方ない。 ああ、何をためらってるんだ彼女はもう僕の物なのに。 小さな籠に彼女を閉じ込めて数日間観察する事にした。 一日目、籠に入れると何が何だかわからないという顔をする。 時々こっちを恨みがましそうに見ていた。 笑いかけてあげると顔をふいとそらしてしまう。 生意気だ。 何日か経つとぴぃぴぃとやかましいくらいに声をあげた。 人間と同じような構成のくせに何処からそんな声が出るのかと思うくらいの声だった。 ぎゃーぎゃーと喚いて喉を震わせてがしゃがしゃと籠を揺する。 うるさいと叱ってもしばらくは黙らなかった。 籠を投げ飛ばすとようやく静かになって黙った。 白い肌に傷がついてしまったけれど血は出なかった。 それからまた何日か時間が経つ。 彼女は本当に人間と同じような中身なんだろうかという疑問はまだ疑問のまま。 切り裂いたって良いのだけれど今はまだこの観察を続けていたいと思った。 頭を撫でてやるとこちらを睨んで顔を歪めた。 ひどい顔をする。元々は可愛いのに勿体ない。 横たわったまま動かない。力が出ないんだろうか。可哀想に。 それから少しして完全に彼女は動かなくなった。 死んでしまうのか。精霊も死んでしまうのか。 こんなにも呆気なく死ぬのか。 生きていた時よりも一回り小さくなってしまったように感じる彼女の体を籠から取り出した。 そして上半身と下半身とで二つに割った。切った。 よくわからないけれど大方人間と同じような中身だ。と思う。 血は無いのか一滴もこぼれなかった。 小さな死体を前にちょっと可哀想だったかと思う。 もっと観察してればよかったな。面白かったかもしれないな。 精霊って言うんだから何か魔法とか加護とかあったかもしれないなぁ。 そんな事を考えながら弔いのつもりで水をかけてやる。 そうすると彼女の小さな小さな手の小さな小さな小指が動いた気がする。 ぎょろっと目が動き出して足が立ち上がる。 下半身がとてとてと歩きだして更に走り出した。 上半身は辺りを見回してから手をついてずりずりと動き出した。 それも速度をあげてさかさかと動いて二つとも部屋を出ていく。 本当なら追いかけて何処までなら意識があって動けるのかと確かめてみたかった。 だけど、やっぱり少しびっくりしちゃって。 精霊のシャハラとはここでお別れだ。 (やっぱり小さいとできることが少ないな) (次は何にしようかなぁ) |