彼女の従者が彼女といるのを見つけた。
何やら言い争っているようで様子を見てやろうと近寄った。
顔を赤く染めた彼女は涙を浮かべていて呂律の回らない口調だった。

「だからぁ、ちがうっていってるでしょお、ばかあっ」
「俺は馬鹿だよ。で、要するに?」
「ばかじゃあないもん…なにいってるのよぉ」
「お前が言ったんだからな」
「わたしはぁ、いってらいもん…ばかあ」
「はい、今言った」
喧嘩かと思えば彼女が一方的に従者に絡んでいるらしい。
聞けば彼女は酔っているらしく先程からこの調子だそう。
酒を一杯飲んで前後不覚になるくらい弱いのだそうだ。
何故飲ませたのかとふにゃんふにゃんの彼女を尻目に従者に聞いた。
今日は大丈夫、と訳の分からない自信のもとで勝手に飲んだらしい。
そろそろ失礼を、と言って俺に頭を下げてから彼は軽々と彼女を抱き上げた。
本来ならばやはりこれは従者の仕事だ。
部屋まで運び今後二度とこの様なことが起きないようにとするのが。

しかし嫁が呂律も回らず非力である上にろくに力も入らない状態。
まして顔を赤く染めて潤んだ瞳で無抵抗で身体を委ねる。
それが例え従者であろうとも男に任せるのは如何なものか。
思わず従者をひき止めて俺が運ぶと伝えれば怪訝そうな顔をされた。
しかし男が嫁いだ女性に触れるなんてと告げれば納得したようで彼女を離した。
ふらふらとした彼女は俺に寄りかかるとふにゃりと笑った。
従者が女官に声をかけたらしくこちらへ数人きた。
運ぼうと彼女に触れるがそれを断って彼女を背負う。
従者や女官が引き止めるのも気にかけずいつもよりほんの少し熱く感じる彼女を部屋まで運んだ。

部屋までくると寝台へと乗せてやり寝るよう促した。
だが彼女は潤んだ大きな瞳でじっとこちらを見ると戸惑いながらも口を開いた。

「ひげにさわっても…いいですか」
よく分からない申し出だが別に構わないかと思い彼女の隣に腰かけた。
そして小さな手を取ると顎の辺りまで運ぶ。
一度躊躇うも小さな手はするすると髭を撫でてむきゅりと掴んだ。

「赤って、こわい色だけど、あなたのきれいな色とおもうのです」
するりと小さな手が俺の頭上に回り頭を撫でられる。
うふふと緩みきった笑い声をあげたかと思えばこちらに寄り掛かってきた。
細い身体を抱き締めてやると寄り掛かったまま俺を見上げ顎の下あたりに口づけてきた。
きっと彼女はもう無意識で改めて今の出来事を伝えも何が起きたのかと首を傾げるんだろう。
すやすやと呑気にも寝息をたてはじめた彼女を優しく寝台へと倒した。

このまま犯してやろうか。
無防備に眠るのが悪い。
弱いくせに酒を口をしたのが。
男に身体を任せたのが。
誘うような真似をするお前が悪い。

俺が好きなんだろう。
抱かれたいんだろう。

溜め息をついてから相手の頭を撫でてやり髪に口づけてから部屋を後にした。
覚えていない、じゃつまらない。