シャハラはどうしてもこれに答えてほしいらしい。

「どうして紅炎様は私が嫁ぐのをよしとしたのですか」
ただの領主の娘で何の取り柄もないのに、と彼女が続ける。
きちんと自分の身分や立場を理解しているのはいい。
いいが何も言葉にしてまで卑下する必要はないだろう。
否定するか咎めるべきかと思うも彼女がそれを狙って言ってるなら癪だと思い黙った。

「お前みたい女を選んだ俺が愚かだと言いたいのか」
違うと言うのはわかっていたが嫌がらせの類いでそう言った。
彼女は首を横にふってそうではなくて、と歯切れ悪く言う。言葉は続かない。
じゃあ気にするなと言ってこんな話題を終わらせてもいいのだが多分納得しないだろう。
またいつか問われるんだろう。

何度も考えたし変わらない答えならばある。
俺が彼女をどうこうした訳ではない。組織が彼女を選んで連れてきたのだから。
しかしこれを正直に伝えるのは可哀想だ。
衝撃を受けて俯いて小さな声で答えてくれてありがとうとお礼を言うだろう。それから一人になって色々と考え込み罪悪感や自責の念に涙するだろう。
それは可哀想、だ。

だからと言って好きだと嘘をつくのも癪だ。
あちらはこちらを好いていないのだし、こちらも別にそう言った気持ちはない。
ふと思考を別のところにずらしてみる。いつからかは別として今の俺は彼女を気にしている。
何故か。

すぐに答えは出た。
面白いからだ。
他の女とは違う。

と言うのを伝えると彼女は別に嬉しくも悲しくもない様で。
そうですか、とだけ直ぐに呟いた。何だ。もっと喜ぶと思ったのに。
少しの沈黙の後に彼女は再び口を開いた。

「きっとこうして私と話す時間をつくるからそう思うのでしょうね。他の女の人とも話せばこういう関係になったと思います」
彼女の言葉は確かにそうだし何も間違ってない。
むしろ彼女以外の女の方が媚を売るし愛想はいいし品もあれば教養もある。それに身体だってすぐにこちらに委ねただろう。
話をするならばそちらの方が楽しかったかもしれない。
別に彼女である必要はなかった。
だけど改めて彼女の口から言われると引っ掛かった。暗に別の女の方がいいじゃない、と言っている気がして。
とても不愉快だった。

「それはお前だって、俺じゃなくとも話す時間をつくれば他の男で変わりなかっただろう」
彼女はややあってからそうですねと頷いた。
否定されたらされたで何を根拠にこの売女とも思うが、肯定されたらされたで誰にでも媚を売るこの売女と思ってしまう訳で。
自分が少しでも彼女に対して惜しいと思ったのが悔しい。彼女は経緯は何であれ他の誰でもなく俺の嫁であるのに。
こんなどうでもいい一人の女に心を乱されたとあるのがとても不愉快だった。
ああ、そうだ、どうでもいいんだこんな女。

「でも、私の相手は他の誰でもなく貴方です。こうしてお会いしてお話していく内に惹かれていくのは私だけですか」

何を言うのかと思えばそんな事で。
何と返せばいいのかわからずに今日はもう失礼すると立ち上がった。
彼女も立つと頭を下げてごめんなさいと謝っていたがさっさと部屋を出た。

頭の中が上手く回らない。

落ち着け、呆れろ。
誰だっていいとほざいた女だぞ。
そこら辺にいる女たちとなんら変わりない。
むしろ俺の知る女よりも劣ってるじゃないか。
不相応にも程がある。
何が惹かれるだふざけるな。
生意気だ。
図々しい。
馴れ馴れしいじゃないか。

(嬉しいだなんて、そんな)