結納品と、お祝いの品。
今日が結婚式の日でもないのにいつもより豪華な衣服に厚い化粧。

「(…酷い顔だったからかな)」
貧相な姿をあちら側に晒すわけにはいかないという配慮かもしれない、とも思えた。
精一杯綺麗に飾られた私は今日、煌を出ていく。

紅覇とは結局引き留められたあの日を境にあっていない。
本当にもう私には興味がなくなったのかもしれない。彼には、そういう気分屋のところがあるから。

その方がいい。
いや、それは嫌だ。

まだ相反する感情を抱えつつも煌から距離は離れていく。

それこそ、まだ見ぬ嫁ぎ相手に夢を見て、美しい街でも想像すればいいのだ。
そう頭でわかっていてもうまくできない。死にたい、とさえ思ってしまう。

今。
そう、今だ。
今、もし、この輿が襲われたら。
喜んで死んでやろう。
抵抗することなく、大人しく命を奪われてやる。

そんな思考を読んだかのように、輿が大きく揺れた。
がたがたと揺れて外が騒がしくなる。

「何かありましたか?」
輿から顔を出し、何があったのか問いかけた。
馬上の従者が私を見て焦ったように声を上げる。
危ないから中へ入っていてくれと。

何かが起きたことは明白だったが周囲に特に怪しい人影はない。

「何があったの?」
もう一度問いかけると彼は重々しい表情で口を開く。
襲われているけれど、相手がわからないからどうすればいいのだろうか、と。

そんな会話の最中にも大きな氷の塊が近くに落ちてきた。
驚いた馬を落ち着かせようと馬上の彼が声を上げる。
ぼんやりとそれを眺めている私に声がかかった。

「姫様、危ないですから、どうか、どうか、中へお戻りください!」
「ここは私達にお任せください!必ず何とかしますから!」
そう言いながらも彼らは構えた弓をどこへ打てばいいのか迷っているようだった。

私は別に死んでもいいのだけれど。この人たちを巻き込んではいけない。
この人たちは帰る場所がある。待っている人がいる。愛する大切な人がいるだろう。
それに…それに…―私を守ってくれようとしたじゃないか。

結い上げた髪から簪を抜いた。
こんなものでもないよりはある方がいいだろう。

「退いて」
何をするんですかと戸惑う従者の声が聞こえた。

「巻き込まれないでね」
この奇妙な力を持って生まれたことを悔やんでた。
普通の人を羨んでいたし自分が憎くさえ思えていた。

それでも、この力で何ができるのかと興味があった。
知りたいという欲があった。理解を深めたいと。

湧き上がる例えようのない知識欲は私の胸を躍らせ背筋を震わせた。

だから、私は魔法が使える。
今、対峙している相手よりもずっと上手く…―!

大きな火の玉をいくつも作り出し空に放った。
私の思い通りに動く火が高く高くあがっていく。

わぁ、と声があがったかと思うと私達を襲ってきたであろう人物が現れた。
それは、煌帝国の神官だった。