結婚の話が来た。 お姉様方より先に私へと来たのは、私が役に立たないからだ。 勇ましい姉達は迷宮に行き、力を手に入れ、武人として立場がある。 引っ込み思案で宮廷でも影の薄い私などはさっさとよそへやってしまうくらいの価値しかないんだろう。 別にどこへだって行くけれど、少しくらい息がしやすい場所だといい。 「シャハラ」 おめでとう、とお姉様が笑った。 「遠くで行っても元気でね。上手くやるのよ、貴方ならできるわ」 「幸せになってね。何かあったらすぐに手紙を頂戴ね、力になるから」 優しい姉の優しい言葉。 けれど、けれど、心の内では何を考えているんだろう。 貴方も私を役立たずと思っているんでしょう。 私が魔法を使えると知ったら気味が悪いと思うのでしょう。 「お姉様も、どうぞ、お元気で」 私はきっとこうして誰ともわかりあえずに死んでいくのだ。 「いかないで」 この世にも、立った一人だけ、私を愛して必要としてくれる存在が確かにいる。 でも、それは血を分けた弟で正当な皇子だ。 「いっちゃやだ、おねがい、おいていかないで」 離れた方が良い。それがお互いのためだろう。 頭ではそうわかっていても胸が痛かった。 だって、この人がいなくなったら私はこれからずっと一人に決まってる。 それに耐えきれるだろうか。折角私を認めてくれる人がいるのに。 でも、それでも、この子の為に離れるべきなのだ。 でも、それでも、もし、もしも、耐えられなかったら。 「(耐えられなかったら、)」 潔く、死んでしまおう。 それがいい。そうしよう。 ふと頭に浮かんだ考えはとてもいいものに思えた。 だってそうすれば、私は彼以外の男を知らずに死ねる。 醜い死体を家族に晒すこともなく、呪った土地で眠ることもない。 「僕がいるのに」 私を泣きながら引き留める彼を宥めた。 目元を赤く腫らした彼もしばらくして拗ねたように引き下がった。 これでいい。 部屋で一人きり、寝床についてから、暗闇の中で悔いた。 これでいい訳がないと。 もうこれで私を愛してくれる人はこの世にいなくなった。 もうこれで本当に一人きりだ。誰もいない。 私を認め、愛してくれて受け入れてくれる人間は、もう誰もいない。 どろりと涙が出てきた。 もう、これで、私の死に涙してくれる人もいないのだ。 ああ、いや、ひょっとしたら顔をしかめてくれたりはするかもしれない。 「(さみしい)」 もう、死にたくなってきた。 |