紅覇が夜に怖い話をしようと誘ってきた 。 楽しそうではあるが時間が取れないと伝 えると不服そうに声をあげた。 彼はどうしてもしたいのかお願い、と頼み込む。 「炎兄が最近気にしてるあのお姉さんも誘ったんだよ。怖いの苦手だってびくびくしてた。可愛いね」 別に気になんてしてない、と否定してからよくよく考える。 何を無防備に他の男と会ってる。 何を夜の男の誘いに乗ってるんだ。 そしてびくびく怯えてみせたのか。 俺は見たことないぞそんな姿。 余程険しい顔をしていたのか紅覇が俺を覗きにくる。 見上げてくるも何が気に障ったのかはわからないようだった。 そもそも俺は何をそんなに気にしているのか。 「でも炎兄の名前出したら行くって。素直だよね」 その言葉に反応してしまう自分は単純だと思う。 しかし俺の名前で彼女は動くのか。 怖いのは苦手だが、彼が行くのであれば自分も、と? 健気というか必死というか。そこまでして気にしてほしいのか。 「あれは、紅覇様が来なかったらわかるだろうと脅しになったからです」 違った。 行かなくて良いなら行きたくありませんと彼女が続けた。 まぁ、予想はしていた。 俺の名前のみに反応なんてしないだろうと。 するとしたら脅しぐらいであろうとは。 しかし行きたくないと言うなら引きずってでも連れていきたくなるな。 きっとこういうのが脅しに使われる理由、そして脅しとして通用する理由なんだろう。 怖いのが苦手とは何とも可愛らしいというかなんというか。 改めて聞けば死霊の類いは苦手だと。 どれだけ怯えるものかと伝承ではあるが死霊の話をすればなるほど。 紅覇の言うとおりびくびくと怯えてみせた。 物音にびくりとはねてそわそわとし出しぎゅっと衣服を掴み身を縮こまらせてい た。 夜が更けてそろそろ紅覇達のところへと思うが踏みとどまる。 こうも可愛らしく怯える相手を他の男の前にさらしていいものか。 今はまだこの程度だがその内涙を浮かべるんじゃないか。 そして恐怖するという羞恥に顔を染めて悟られまいと俯いて…。 ああ、駄目だな。晒すわけにはいかないな。 やっぱり止めようと踏みとどまった。 しかしどうしたものかと考えれば明日の為に寝ようと自分の中で落ち着いた。 自室へ戻るために彼女の部屋から出ようとしたらびくりとして彼女は震えた声を出す。 まだ行かないで、と。 ぎゅっと俺の服を掴み引き止めてきた。 彼女に限って有り得ないと思いつつからかうため口を開いた。 「誘っているのか」 かあ、と顔を赤く染めると俺の服から手を離した。そして違うと否定される。 わかってはいた事だが改めて言われると腹が立つな。 彼女の身体を強引に壁に押し付け耳元で低い声を出して囁く。 「まだ断るか。止めたいと」 ぎゅっと再び俺の服を掴んだ彼女が言う。蚊の鳴くような細い声で。 何に対してかはさておき恐怖から泣き出していた。 嫌です、と小さな声で彼女が言った。 だから別に強引に何かをするつもりはなく泣かせたい訳でもなかったが泣いてしまった。 仕方なく頭を撫でてやり寝台に優しく座らせる。 落ち着いたらしい彼女の身体を押して一緒に寝そべる。何もしないから寝ろと言えば素直に寝ますと答えた。 しばらくしてから寝息をつきはじめぎゅっとこちらにしがみつくよう抱きついてきた。 そしてぽつりとお父様、と彼女が呟いた。 なんて失礼な寝言かとも思うが彼女の父親は彼女が幼い時に亡くなっていて。殺されたのだけれど。 俺くらいの年齢だったかもしれないなと思いながら相手の頭を撫でてやる。 甘えたかったのかもしれないと思うと胸が痛かった。 |