穢土転生という馬糞みたいな術がある。
そして私はその術によって再び意識を持って地を踏みしめ歩いている。


あっさりと傀儡の中に捕まった私は目を伏せて外の音を聞いていた。
奇襲が成功しないのは何だかとてもかっこわるい感じがする。
別に、もう私が気にする必要でもないのだが。

外でカンクロウという男とサソリさんが会話をしはじめた。
傀儡の術を使うもの同士何か話したいことでもあるのだろう。

私の人生って何だったんだろう。
私が何かしたいと、思ったことはあるだろうか。
生きたいと思っていたんじゃないのか。
兄や名も知らぬ人々に手をかけてまで、生きたいと、思っていたんじゃないのか。
自殺なんてくだらない真似をしたくせにか。

私の人生は、一体何だったんだろうか。

「開けて」
自分の口から出たのは細い声だった。
震えた情けない声だった。

「お願い、開けて。もう何もしないから」
私の体を拘束しているものは力を込めれば案外すんなりと取れた。
それを始めとして何か中の様子が変だと近寄ってくる人の気配を感じる。

「最後の、お願いだから」
開けて、と傀儡の入り口を撫でる。
動く素振りを感じて手を離せば静かに、静かに傀儡が開けられた。
敵に随分な優しさを見せるものだと、笑ってしまう。
相手の気が変わらない内に外へと飛び出して動かれては面倒だと傀儡を破壊した。

当然、周囲の目は疑惑の色に染まる。
けれど、傀儡を開けた本人であるカンクロウだけは私を真っ直ぐと見つめていた。
なんていうのは私の願望で、もしかしたら彼にその気はなかったのかもしれない。
人の物壊しやがって、という非難の目だったのかもしれない。
とにかく私はありがとうとお礼だけ伝えて歩き始めた。

サソリさんの囚われている傀儡の入り口を破壊すれば中には拘束されている彼がいた。
レナ、と私の名前を呼ぶ彼は既に崩れ始めている。

彼の世界に踏み込むことはしなかった。
人の考え方はそれぞれで私は理解できないだろうと思ったからだ。
現に傀儡の話は幾度聞いてもよくわからなかった。
だからカンクロウの話のどこに彼を解き放つ要素があったかはわからない。
わからないけれど、このまま終えてしまうのは、寂しいと、寂しいと、思ったから、

「サソリさん」
私の情けない声は拍車をかけはじめた。
どこから出てきたのかはわからないが瞳から滴が溢れ出てくる。
久々のそれは私の頬を濡らし、視界を歪ませる。

「貴方は私の光だった」
暗く冷たい世界で貴方の存在が私をどれほど救ったことだろう。

「貴方は私の希望だった」
どんな日だって貴方と一緒にいる明日を幾度も想像していた。

「貴方は、貴方が、私の生きる全てだった!」

抱きしめた彼はいつになく温かくて温かくて。

「私は、貴方を、愛していた!」

貴方がいなくなった世界を一人で生きていくのが辛い程には。
私は、彼を愛していたに違いないのだ。

崩れゆく彼はカンクロウに向かって父と母の傀儡を譲る旨を伝えていた。
私に何か一言くらいあってもいいだろうと思えば彼は私の名前を呼んだ。
呼ぶだけだった。

強く抱きしめ返されて彼の最後の表情も見れなかったが、笑ってくれていればいいと、思った。

ばらばらに崩れた彼を前に涙は後から後から溢れてきた。
けれど、きちんと言葉にできた。そして伝えられた。
これ以上、何を望むことがあるだろうか。

指先からじわじわと崩れ始める体を引きずって閉ざされたままのもう一つの傀儡に近づいた。

「デイダラ、貴方に出会えて良かった。本当に、本当に、とても楽しかった」
内側から私を呼ぶ彼の声が聞こえる。
それがあまりにも悲痛さを感じさせるものだから涙が乾いて逆に笑えてきた。

「私は、」
傀儡へと伸ばした手はもう原形を留めていない。
本当の肉体を持ち合わせていないという感覚はこんなものか。

「貴方が大好きだった」
もう傀儡にさえ触れることも叶わずに私の体は朽ちてゆく。


なんて、いい人生だったのか!