お人形のようだと、思った。

彼を見た瞬間、私の胸の中が燃え始めた。
友人の腕を引っ張ってねぇねぇ、彼の名前は?知ってる?なんて慌てて問いかける。
友人であるコムシは得意気に彼の名前を言った。サソリというらしい。
そしてコムシは俺はあいつの親友なんだぜ!と自慢までしてきた。腹立たしい。

とにかく私はあのサソリという美しい人に一目惚れした。

別に内気だと言うわけではないが、自尊心は高いほうであると自覚している。
そのせいか、なかなか彼に声をかけるまでにいたらなかった。
そもそもが彼と私が顔を合わす場面が少ないのだけれど。 

「(どんな声なんだろう)」
彼の声が届かない、そんな距離から彼を見つめることが多々あった。
コムシと一緒にいる彼は時々唇を動かしている。何の話をしているかはわからない。
ただあの人形みたいな顔が動くのはとても不思議な感じがした。

いやいや、彼だって私と同じ生身の人間なんだから当然だ。
あ、でも、彼は傀儡づくりの天才だったっけ。


彼の声が聞こえる距離にいられるなんて、とてもとても、うらやましい。

コムシが死んだ。
騒がしい奴だったがいい奴だった。
葬儀は静かに行われたが母親はずっと泣き叫んでいた。
眠るような死に顔を見て私も少しだけ泣いた。

葬儀をしていた場所から少し離れるとサソリが、いた。
一人でぽつんと座っていた。
私に気付くと彼は終わったのか、と聞いてきた。

頭の中が真っ白に、なる。

終わったよ、と答えることができたのはしばらくしてからだった。
彼はそうか、とだけ言うとさっさと立ち去ってしまった。
どうして彼が離れた場所にいたのかはわからない。
わからないがコムシのあの騒がしい声が彼を親友と呼んでいたのを思い出して、また少しだけ、泣いた。

葬儀から少し時間が経った日の事だった。
道端で彼をみた。
彼の足下に女の人がいた。泣いていた。
コムシの母親だと気付いたのは近づいてからだった。

「…あの子を、返して。私の子よ、私のコムシよ」
泣き叫ぶ声と内容でようやく気付いたのだ。

女から彼へ視線を移す。
彼は表情が少ない方、だと思う。

その彼が眉を寄せて自分の足下にいる女を見ていた。

(―…邪魔、なのね)

それからしばらくして、私が誰にも気付かれないよう彼のためにあの女を殺した。
くしくもその日、彼は里を抜けたらしい。


ほら!ねぇ、この狂おしい程の恋心はどこへもっていけばいいのかしら?