まだ幼いパートナーを任務に連れていくには躊躇いがある。 相手を思いやって、なんてことは皆無だが邪魔だし足手まといだ。 余程のことがなければレナのことは置いていっている。 彼女自身にその旨を伝え、それを受け入れているから何も問題はないだろう。 外に出る際は一応伝えて、戻る予定も伝えている。 それは彼女がどうこうということではなくて、待つのも待たせるのも嫌な自分の性分からだろう。 (あ、どうして嫌なんだっけ) その日も同じようにするつもりが本を開いたまますやすやと彼女が眠っていたから。 わざわざ起こして伝えることでもなければ今日中に帰ってこられるだろうと思ったから。 何も言わずに外に出た。 本を開いてその上に頭を乗せて眠る彼女は器用だと思う。 唾液を垂らして本を汚したりしなければいいのだが。 そんなことを考えながら予定通りに任務を終えて、長引くこともなく夜には再び戻れた。 異変を感じたのは荒れた室内を見てからだった。 ひどく荒らされて散らかっている室内を見回して少しだけ、緊張が走る。 ―…嗅ぎつけられたのか。 そろりと物陰から出てきて小さな虫みたいな声に反応できたのは一息ついてからだ。 サソリさん、と俺を呼ぶ小さな彼女は非難めいた視線を投げてくる。 「どこへ、行ってたの」 何があったのかと問いかける俺の言葉とほぼ同時に声が交差する。 俺に答える気がないのを察すると彼女は眉を寄せて荒れた周囲を見回した。 「別に、いつも通りでしょう」 殺してやろうかこのくそがき。 彼女が、理由はわからないし理解する気もないが、とにかく彼女がやったのだと。 そう理解すると一気に冷めた。呆れた。どっと疲れが押し寄せてくる気がした。 「…片付けろよ」 彼女に背を向けてとっとと自室へ戻ろうと歩き始めた。 すると、後ろからぼすりと何か、投げつけられて足を止める。 床に落ちたのは引き裂かれた本だった。先程彼女が枕にしてたやつだ。 「謝って!」 いよいよ訳がわからなくなって落ちた本をそのままに彼女に近付く。 非難めいた表情を変えずに彼女は俺を見上げている訳だが。 「…何を?」 まるでこちらが狂言でも口にしたかのように。 彼女は大きな瞳をかっと見開くと握りしめた拳をぶつけてきた。 「勝手に!いなくなった!」 ようやく多少の合点がいってああ、と頷く。 外に出ることを告げなかったことを、彼女は責めているのだと。 わかったからとはいえ、くだらないことに変わりはない。 これだから子供の世話は、なんて溜息をつく。 「いつまで待てばいいのかわからなかった!」 その溜息が彼女の気にさわったんだろう。 握りしめた拳が間をあけずにぶつけられてくる。 非難めいた表情はぐしゃりと歪んで、泣きそうな顔に変わる。 面倒だから泣いてくれるなという思いが届いたのか届いてないのか。 泣くことはなかったが彼女の幼稚な責め言葉が続いた。 「何も言わないで行くなんて!信じられない!最低!」 寝かせてやったにも関わらずこの言われよう。 それでも何か言い返す気にはなれず小さな体を抱きしめると謝罪の言葉を口にした。 満足がいったのかそれ以上彼女も何も言わずに大人しく抱きしめられている。 「父様と母様はいつ帰ってくるの?」 「いつ会えるんですか?」 「ねぇ、僕…―」 (あの人達の声も、) 人を待つ時間ほど、苦痛なものはない、と。 「ご飯にしましょう」 けろりと、いつもの調子で彼女が言う。 「それからお風呂に入って、眠りましょう」 床に散らかる本達を拾い集めながら彼女が続ける。 「…もし、時間があるなら、明日、見てほしい術があるんです」 荒れた部屋を片付けるべくせかせかと動き回る彼女を横目に見ながら時間があったらとだけ言った。 さて、風呂を沸かそうか。 |