「大蛇丸様!」
彼の姿を見つけると自然と頬が緩んで、緩みきって、馬鹿みたいな笑顔を浮かべた。

「大蛇丸様がいるってわかったの。だから、会いに来たの!ねぇ、久しぶりだね!ずっと会いたかったんだよ!」
彼に抱きつくようしがみつくよう傍に寄る。
久しぶりの彼の姿に、匂いに、体温に頬は緩みっぱなしだ。

それなのに、急に、涙が溢れてくるものだから、

「本当に、ずっと、ずっと、会いたかったんだよ」
笑いながら泣くという器用な真似をしてみせる私を彼は困ったように笑って見つめていた。
それからいつもみたいに頭を優しく撫でてくれる。
まるで、時間が戻ったみたいだった。

「ねぇ、ずっと一緒にいられるよね?もうどこにも行かないでしょ?私を一人になんて、しないよね」
彼は細い手を私の肩に置くと、困ったように笑ったまま私の名前を呼ぶ。

「レナ、貴方は今までだって一人じゃなかったでしょう」
「でも、貴方がいないなんて!一人ぼっちと同じだよ」
緩んでた頬は落ちてきて、弧を描いてた唇が震える。

「もう、私を置いて行ったりしないで」
震える唇が必死に言葉を紡いで荒い息を吐く。
呼吸の仕方を、今、ようやく思い出せた気がした。

「貴方がいないとどうやって生きていったらいいかわからないの。息をするのだって、苦しいのに」
困ったように笑う彼は私を宥める様に名前ばかり、呼ぶ。

「…どうして?いつもは聞いてくれるのに。置いていかないでって言ってるだけなのに!」
彼は少しだけ躊躇いを見せてから説教じみたことを語った。
ずっと人を頼ってばかりではいけないだとか、自分で生きていかなければならないとか、そんなことを。
間違ったことを言ってる訳じゃないのに、妙に腹立たしい。

「貴方となら、一緒に死んでもいいって言ってるのに!」
私が叫ぶような声をあげると彼は私を抱きしめた。
抱きしめるというよりはすがりつくような、しがみつくような、そんな感じだった気もする。

「レナ、お前を置いて行ったこと、本当に悪かったと思ってるわ」
なんとなく、口を挟む気にはなれなかった。

「お前と、いつまでも一緒にいられたらどれだけいいでしょうね」
だって彼は私に生きろと言ってるのだから。

最愛の人が、私に生きてくれと頼んでいるのに。

「私は、貴方が、世界の全てだった」
どうしてそれを断ることができるだろう。

「…そう。でも、お前はもっと本当に広い世界を見ておいで」
目を伏せると色々なことが思い出されて悲しいのかなんだか分からなくなってきた。
ふふふ、と笑う声が出るのに涙は一向に止まる様子を見せない。

「貴方が話してくれた、雪だとか海だとか?」
「そうね、美味しいものを食べて美しいものを見てきなさい」
「貴方ができなかったことたくさんしてくるよ」
「そう、それがいいわ。とても羨ましい」
「羨ましいでしょう。待っててね、全部貴方に教えるから」
だから、と紡ぐ言葉を最後に涙を拭った。

「たくさんのことしてくるね」
彼は笑顔で私の背中を押して、行っておいで、と。
それだけでどこまでも行ける気がした。