※未遂 ※続くかも知れなくもない サソリさんが生身になった。 敵の術でこうなったのだが死ぬ訳じゃない、とりあえず安心していいと角都さんに言われた。 勿論それからしばらくくだらない些細な言い合いにはなっていたが。 「いつ戻るんだ?そんなこともわかんねぇのか」「黙れ。心配なら病院でも行け」「馬鹿かお前は」「第一、お前の人形遊びは生身でも出来るだろう」「…あぁ?誰の何が何だって?」「絡むな。鬱陶しい。…今のお前には心臓があるんだったな?」…というような。 角都さんにお礼を告げてサソリさんを宥めつつその場を去った。 別に普段から彼らがこういう会話をしているわけではなく、むしろ暁の中ではそれなりに落ち着いていて節操のある二人だろう。 だから、余計なことを言ってしまうくらいに彼は今不安定、なのかもしれない。 舌打ちをして寝台に座り込む彼は不機嫌そうだ。 外套を脱ごうと釦をはずした彼が生身の肉体であることをこの目で見て少し意識した。 その視線を感じとったからか単に嫌気がさしたのか彼の動きが止まる。 そして不便だ何だと言い始めた。やかましい。 「レナ、お前に俺の膀胱を預ける。しっかり管理しろ」 「仮に私の体内にあなたの膀胱が入ってきてもそうはなりませんよ」 こんな馬鹿げたことをいうくらいに、彼は参っているのかも、しれない。 「…何か、食べますか?」 ふと思いついて口にすれば彼は即座に必要ないと拒否した。 理解していたが可愛いのは外見のみだ。 そろそろと近付いてのどは渇いてないかと問いかける。平気だ、いらない、とのお答え。 …彼が喋る度にのどが上下する。 彼の瞳が瞳がぬるりと私の姿を追う。 あの体温のない筈の手は、今、温かいんだろう。 「…触るな。離せ」 そう思うといてもたってもいられず同じく寝台に腰を下ろすと彼の手を取った。 そしてその反応が先程の冷たいものだ。 「振りほどけばいいでしょう」 「黙れ。馬鹿力が」 「貴方が本気を出せば私なんて虫けらだわ」 手を引けば彼は私に引き寄せられる。 特に抵抗らしい抵抗もなくぽすりと彼は私の中に収まった。 じんわりと温かい体温が感じられる。 「殺されたいのか」 「まさか。不機嫌ですね」 「離れろ。死ね」 「死にません」 また、舌打ち。 「ねぇ」 「うるさい黙れ」 「セックスしましょう」 彼の動きが止まった。 私を見て信じられないと言ったような表情だ。 「…いやだ」 「いつもはしてくれるのに」 「気分が乗らない」 「いやだ、だなんて」 「離れろ。触るな」 手を、握りしめる。 「単純な力だけなら私の方があるんですよ」 そしてそのまま彼を押し倒した。 彼の不機嫌そうな顔は変わらない。 「貴方は、優しいから、」 彼の外套の釦を一つ一つはずしていく。 生身の肉体が、温度のある皮膚が露わになる。 「いつも私の相手をしてくれるし、」 細い首筋に唇を寄せて舌を這わせる。 悪態をつく声は確かに聞こえていた。 「私の嫌がることはしないけど、」 首に口づけて、吸い付く。 赤い痕が残るのを舌でなぞる。 「私は嫌がられると、興奮する」 彼にいつもみたいにくそがき、と罵られた。 抵抗らしい抵抗をしないのは。 彼が優しいからか面倒くさがってるのか。 相手が私だからというのは自惚れてる気がする。 何にせよ力で押し負けることはないから強引でもなんら問題はないのだが。 「…教育を間違ったな」 「貴方の傀儡のこともわかりませんしね」 「昔は素直で可愛かったのにな」 「今だって素直で愛くるしいでしょう」 「そうだな。大して変わってないか」 どこかひん曲がったけどな、と彼が言う。 首筋から胸へ、胸から腹へと舌を這わせると彼の体が小さく反応するのを感じた。 彼の口からは相変わらず悪態が漏れてきている訳だが今更止めるという気はさらさらなかった。 彼の服にも手をかけて下着も一緒に脱がせてしまうと性器が、出てくるわけだが。 そっと視線を外す。 そろりと手を出す。 触れると、思わず、手を引っ込めた。 男の性器を生でみるのは、初めてだ。 そもそも先程だって一瞬しか見てないし見たいとは思わないのが。 行為をやめる気は全くない、ない。ない、が。 再び触れるのはひどく勇気がいる気がした。 だって、あつい。あたたかい。 あまりにも情けないというか格好がつかないというか。 しばし動きを止めていたものの意を決して再び動き始める。 視界に入れないようそろそろと動きつつもふとした瞬間に見えるそれは思っていたよりもグロテスクな感じがする。 内臓。内臓みたいなものだ。 そう言い聞かせながらぱくりと咥える。 舌を這わせる、けど、 (どこがいいんだろう) 不意に笑い声が聞こえてむっとした。 このまま食いちぎってやろうか。 「レナ、いい。はなせ」 上半身を起こした彼が私の頭を撫でながらそういう。 いつもと同じような声音で言うものだから大人しく口から彼のを出した。 私が体を起こして彼と向き合う形になると再び笑われた。 「へたくそ」 食いちぎってやればよかった。 心底そう思いながらなんとなく、視線を彼からずらす。 恥ずかしい、という思いがそれとなく胸を占める。 「だって、いつも、こんなことしないもの」 言ってから、後悔した。 不慣れなことを暴露してどうする。 自分の愚かさに嫌気がさすと、今までの一連の行動がどうにかなかったことにならないかというようなことを思案する。 例えば。 彼は今、生身なのだ。 首を引きちぎって心臓を取り出して内臓を食いつくしてやろうか。 私の痴態なんてとるに足らないことのように思える。 それに、今、今だけ、彼には、あの細い腹には、内臓があるのだ。 彼の内臓が、今、今だけはあの皮膚の下に。赤い血が通い巡っていて肉がしっかりとつまって…― 「考えことだなんて、随分余裕だな」 「…そうみたいですね。もう終わりましたけど」 彼の腕が私を押す。 抵抗をする気にはなれなかった。 布団に押し倒されると私の危ない思考は中断した。 彼の低い声が何を考えたかと問いかけてくる。 「貴方のこと」 「嘘つけ」 本当なのに、と心の中で呟きながら彼の首に腕を回す。 口づけて強引に舌を絡める。 生温かい濡れた口内にひどい興奮を覚える。 このまま、食いちぎって溝の中に捨ててやろうか。 ばらばらに引き裂いて火にくべてやろうか。 煮込んで調理して、今日の夕飯にでもしてしまおう、か。 「っ…」 びくりと彼の体が震える。 唇を離した彼は私を憎らしげに見ていた。 「噛みついてんじゃねぇよ」 「ごめんなさい、そうですね。今は痛いんですもんね」 可哀想に、という私は笑っているだろう。 不機嫌そうな彼の表情に拍車がかかるくらいには。 「怒った?」 「まさか」 「怒ってはいやよ」 「どうしてお前なんかに」 不意に笑いがこみあげてきて声をあげた。 怪訝そうな彼の表情にますます高らかにあがる声。 「…何考えてんだお前」 「私、いつも同じことしか考えてませんよ、昔から」 ろくでもないことをな、と彼が言う。 「貴方の事よ」 おわれ |