「貴方に、私の何がわかるの!」
「わからねぇよ」
「じゃあ、口出ししないで!不必要に近づかないで!」
「それは約束できないな」
「もう放っておいて!一人にしてってば!」
「だから!無理だって!俺お前の事好きなんだよ!」

それがはじまり。

「で、色んなことがどうでもよくなってシカマルが気になると」
相談相手にと選んだカカシ先生が簡潔にまとめるのを聞いて気持ちが落ち着かなくなる。

「そ、そんな簡単じゃないです。でも、ずっと良き幼馴染というか…家族みたいに思ってたから…」
どうしても気になる、という旨を伝えると彼は軽い笑い声をあげた。

「いいね、続けなよ。うん、微笑ましいね。俺は応援するよ、清いお付き合いをね」
相談相手を選び間違えたと、相談を終えてからようやく気付けた。
カカシ先生と別れてからしばらくは考えるために適当に歩こうと決めた。

シカマルとは幼馴染だ。
アカデミーに入ってから知り合ったのだが、考えてみると付き合いは長い。
本当の家族みたいに付き合ってきたからか彼をそういう風に見たことはなかった。
彼がいつから私をそんな風に見ていたのかは知らない。けれど、全然気付かなかった。

清いお付き合い、だって。
恋人になったら、キスをしたり抱きしめあったりするの?
手を繋いで色んな事を語り合ったりするの?
幸福を共有しあって、慰めあったり励ましあったりする?

友達と、仲間と、家族と、恋人の違いは一体何だろう?

そんな風に考えながら心臓が飛び出してくるような気持ちのまま、彼と会った。

「なぁ、レナ、お前本格的なカレーって作ったことあるか」
「…いや…ない、ないよ」
「そうか。いや、チョウジがさ、カレーの話してきて、他の連中もそれに乗っかってきてよ。で、どこのカレー屋が美味いかってなって、それから一から作った本格的なカレーの話になって」

彼は驚くほどいつも通りだった。
いつもより饒舌?もしかして照れ隠し?なんてことも考えたがそんなことはなかった。
本当に、本当に、いつも通りだった。

「(でも)」
彼は私によく喋る。
他の人にはしないようなくだらない話も。

「…で、そしたら汁が零れて服が汚れちゃったのね。それを見て、カカシ先生が漏らしてるぞお前、って。笑うに笑えなくて我慢してたら吹き出しちゃって。私が一番恥ずかしかったって話なの」
そしてそれは、私もだ。
他の人にはしないようなくだらない話を、彼にする。
彼が笑うのを見て、私もほっとしたような、暖かい気持ちが胸に広がるのを感じる。

「…私、貴方が好きだわ、シカマル」
こんなにも。
こんなにも、幸せを願える人は彼しかいない気がする。
彼に、幸せになってほしいと心から思っている。
これを愛と言わずに何を愛と呼ぶのか。

「本気でいってんの?」
きょとんとした顔の彼がそう言うのに頷いてみせると、普段の彼からは考えられないくらい、ふにゃりとした笑みを見せた。

「うわー、まじ、嬉しい、まじ」
笑う彼に私も嬉しくなった。
私もつい、笑って、しまう。

「うん、私、好きだわ!好き、貴方のことが好きなの!」
ふふふ、と笑いながら彼に抱きつく。
彼も私を受け止めて笑っていた。

はじまりはそんなかんじ。