「どうして、私を誰かと比べてばかりなんですか?正直、とても不愉快です!だって、私は私であって、他の誰かじゃないのに!」
顔がかっと熱くなるのを感じながら声を張り上げて先生の顔を睨みつける。
彼はしばらく私を見つめた後何か面白い事でもあったかのように笑い始めた。

「最初からそうやって怒ればいいのに。もしかして、本当に気にしてないのかと思ったよ」
そう言って彼は私の頭を撫でた。
笑ったままの彼に怒りとは別に恥ずかしさがこみ上げてきた。

彼は、私を怒らせようと意図的に比較してわざわざ言葉に出していたんだ!
そして私はまんまと彼の意図をそのままに怒りを露わにしてしまった!

「ね、嫌だったら怒りなさい。別にお前が怒っちゃだめなんてことないんだから。その調子で泣いたり笑ったりすればいいんだから」
なおも言葉を続け、私の頭を優しく撫でる彼にどうしようもない恥ずかしさがどうっと溢れる。
恥ずかしさに囚われた私は彼の手を振り払い、先程とは違う顔の熱さを感じながら声をあげた。

「ほ、ほんとに、ほんとに、いやだったんだから!」
予想以上に幼稚な言葉に私自身嫌気がさしていると彼はますます笑った。

きっと私は、あの時から貴方の事が好きなんだろう。

――――――

「私、先生が好きなの」

その告白に彼は困ったような表情を、する。
いつもの調子で私の名前を呼ぶと少しだけ躊躇っていた。
そして、落ち着いた声でそれは違うよ、と冷たい否定の言葉を吐きだした。

「違わない。どうして私の気持ちを貴方が否定するの?」
「良いから聞きなさい。お前は勘違いしてるんだよ」
「聞いてないのは貴方の方だわ」
「レナ、俺の話を聞いて」

強い瞳に気圧されて口を閉じると彼は少しだけ安心したような様子を見せた。
それにすら苛立ちを覚えつつ彼を見つめていれば冷たい氷の塊がざくざくと。

「よくある話でしょ、大人への憧れをそういう感情として捉えてしまうだとか。それともレナの場合は自分の全部を肯定的に受け止めてくれる大人の存在が欲しいだけかもね」
違う、という私の否定の言葉を簡単に受け流すと彼は再び口を開く。
彼の声を遮るように私が声を張り上げた。

「私、いつまでも子供じゃないわ!本気で貴方が好きなの!」
少しだけ彼は面食らった様子を見せたものの、それは本当に少しだけですぐに元に戻ってしまう。

「ほらね、すぐそうむきになるんだから。お前が、」
彼の言葉がぷつりと消えたのは。
私が彼に口付けしようとしたからだ。
そして彼はそれを阻止した。

「…こんな真似は、もうやめなさい」
私の口元にある彼の手を食いちぎって捨ててやりたいと思う。
それくらい彼が、彼の行動が、嫌で憎らしくて、自分が、自分の行動が、恥ずかしかった。

けれど、それ程彼の事を本当に好きなのに。

「…先生、私、本当に好きなの」