ソレーユの猫 | ナノ

初めて会ったとき木漏れ日の中にいた君は、葉が風で揺れる度存在も揺れるようだった。

side.A



一人で校内を当てもなく歩く。一体この氷帝学園という所はどれほど広いのだろう。小さい頃に行った動物園みたいだ。
風が少し癖のある自分の髪を揺らす。風の中に、夏の匂いを感じた気がした。そうか、もう入学してから2ヶ月近くが経ったのか。これから梅雨が来て、梅雨が過ぎればあっという間に夏がやってくるのだろう。
俺は夏の大会には出られないんだろうな。一人考える。跡部や忍足は夏の大会でもレギュラーを取れるだろうけど、俺達1年生は普通はレギュラーは取れないだろう。跡部のお陰でテニス部は実力主義になったから、他の部活のように学年順という訳ではない。それでもやっぱり先輩方に勝つのには実力が必要だ。

あぁ、早く強いヤツと戦いたい。
試合がしたい。

ふぁと欠伸が出る。瞼が重い。欠伸のせいで涙まで浮かんでしまった。あぁ、いくらお昼寝できる秘密のスポットを探すためとはいえ、こんな広い構内歩き回るんじゃなかった。思いついたときは、あんなにも名案だと思ったのに。けど、初等部のときの経験から言って、校舎の裏とかがお昼寝にいいんだよね。
そう考えて歩いていればようやく見えてきた、校内と校外を区切る壁。そのままそこを曲がると、校舎の裏側へと出た。
校内と校外を区切る壁と、校舎とはかなり広いスペースが空いていて、ちょっとした庭のようだ。ポツポツを感覚を置いて木も植えられている。うん、かなりいい感じ。…少し見通しが良すぎるけど。死角になるとことかないかなー。
さらにぶらぶら歩いていると、校舎が凹んでいるようなところを発見。さっきみたいに遠目だと校舎が凹んでるなんて思わないし、結構スペースも広い。しかも木も植えてあって昼寝には絶好の場所だね!
植えてある大きな木へと近寄って行くと、根元で誰かが似ているのを発見した。

…誰だろう?

せっかくいい場所を見つけたと思ったのに、もう先に誰かが見つけてたんだ。…何だか宝物を見つけた気分が半減した気分。するする萎んでいく気分に自然と唇を尖らせた。
それにしても、と、改めて根元で寝ている人を見る。どうやら女の子のようだ。その顔や身体に、木漏れ日が当たっている。すやすやと健やかな寝息が聞こえてくる。なんて気持ち良さそうに寝てるんだろう。木漏れ日の影が揺れる他に動くものは、その子の僅かに上下する頭だけだった。

人の寝息を聞いていたからだろうか。それとも、誰かが寝ているところを見てたから?さっきの高揚した気分はすっかりなくなって、代わりに眠気が蘇ってきた。再び下りてきた瞼に、今度は抵抗せずに眠りについた。



ふわふわと空に浮かんでいるようだった。お日様が近くてその匂いさえ感じられるような気がする。陽だまりのお布団に包まれているみたいで気持ちいい。でも、ちょっとここは安定性に欠けるかなー…。雲の上に寝転がりたい。

――君君…、

どこからか声が響いてくる。空から降ってきてるのかな?だとしたら、神様の声なのかな?

――こんなところで寝たら風邪引いちゃうよ…?

こんなところ?ここはお日様がよく当たって気持ちいいのに?あぁ、でも、本当だ。さっきより日差しが弱くなってる気がする。

「んー…?」

まだ夢から覚めたくない、そんな気持ちが唸り声となって外へ出る。けど、今だと言わんばかりにまた緩く身体を揺すられる。
重い瞼をどうにかして上げると、誰かが俺の顔を覗きこんでいるのがわかった。

「…だれー…?」
「あ、起きた?起こしてごめんね。でも、もうそろそろ起きた方がいいと思って。」
「んー…、まだ寝てたいCー。」

ぼやける視界に目を擦る。隣から困ったように笑う気配がした。

「うーん、でもね、部活も始まる時間だし私ももうそろそろ行かないと。」

別に君が部活に行こうと行かなかろうと俺には関係なくない?そんなことを思って身じろぐと何かがずれる感覚。自分の体温が移ったせいか温かく感じるそれが少しずれただけでも寒さを感じてしまう。…あれ、俺、何を掛けてるんだろ。肩へと視線を落とす。…女子テニス部のレギュラージャージ?

「…何コレ?」
「あー…、ごめん。寒そうだから掛けちゃった。」

親切でやってくれたことだろうに、何でこの人は申し訳なさそうにしてるんだろう。意味わかんない。この人のお陰で、温かくて気持ちいい夢を見れたのに。
申し訳なさそうにしてる人は、俺が寝る前に寝てた人だ。段々と目が覚めていくにつれて寝る前のことも思い出してきた。どうやら肩も借りて寝てたみたい。ふぁあと大きな欠伸をして伸びをする。

「ありがとー。お陰で寒くなかったよ。」
「ならよかった。じゃあ、私そろそろ部活に行くね。」

肩に掛かっていたジャージを相手へ差し出す。さわさわと葉擦れの音が流れ、女の子の髪の毛が風に攫われる。短いその髪を耳へと掛けると、どこからか取り出したテニスバッグを背負う。普通は健康的な印象を与えるんだろうに、何故だか自分が夢の続きを見ているような気がした。ふわふわ、ぽかぽかのさっきの夢の続き。
考えるより先に手が、女の子の手を掴んでいた。

「…またここに来る?」
「え?」
「俺もまたここに来てE?」

瞳がきょとんと見開かれてから、細められるまで、その一連の動作がきれいで目を放すことができなかった。

「もちろん。またここで会おうっか。」

バイバイ、手を振って女の子はすぐに見えなくなった。

俺とひなたは、また会おうということしか約束しなかった。日時を決めたりとかそういうことはなかったから行っても会えないなんてこと、珍しくはなかった。会えたからといって、二人で昼寝をしたりするだけで話すのは少しだった。それでも、あの場所は居心地が良かったし、ひなたと過ごす時間はどこか温かかった。



ひなたは、陽だまりみたいだ。


111011


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