ハリ男 | ナノ

ドラコ・マルフォイは見栄を張り威張り散らすという悪癖を持っていたが、元来は気の小さな面倒見のいい心優しき少年であった。
父はいつも様々な人達から敬われ慕われ頼られる、誰から見てもリーダーと呼ぶに相応しい人間であった。マルフォイ家なのだから自分もいつかはそういう人間にならねばという思い以前に、彼は父のようになりたいとそう願い目指してきた。

魔法界のヒーロー、ハリー・ポッターと出会ったとき、彼の胸にあったのはハリー・ポッターへの純粋な憧れだった。ドラコはまだ幼く名前を呼んではいけないあの人への尊敬や憧れよりも恐れの方が大きかったからだ。彼と友人になりたい、そうすればさすがマルフォイ家の嫡男だと大人達からも一目置かれるだろうし、ただ友人というだけで同年代からは羨望の眼差しを得ることができる。純粋な憧れと少しの下心。それは幼くもとても人間らしい感情であった。

――まさか、ハリー・ポッターがこんなヤツだったなんて…

ドラコ・マルフォイの誤算はただその一点だった。

「ハリー!ハリー・ポッター!起きろ!」

最初は穏やかだった声も随分と荒々しくなっていた。気持ち良さそうに掛け布団に包まり寝息を立てるハリー・ポッターは、本来ならばもう起きて準備を始めなければならない時間であるにも関わらず夢の中から目覚める気配が一切なかった。同室になったとは言え、まだ付き合いは一日にも満たない。もしかしたら彼にも何か考えがあるかもしれない。そうは思いつつもやはり時間が時間であり、また世話焼きの性質を持っているドラコからすれば声を掛けずにはいられなかった。

「ハリー、起きなくていいのか。そろそろ準備をしないと朝食に間に合わないぞ」

控えめに掛けた声に返ってきたのは、寝息。今度は言葉と共に軽く揺すってやる。…それでもハリーの寝息は乱れない。段々と遠慮の薄れてきたドラコの揺すりは自然と大きくなっていた。そうしてやって返ってくる反応。

「俺、パス。ごはんいらない」

眠気からくるのだろう、若干舌足らずながらも素っ気無い返事。気だるげとも思えるその返事からはそんなことでわざわざ起こすなとでも言わんばかりの雰囲気さえ漂っていた。何なんだコイツは。むかむかとした思いがドラコの中に込み上げてくる。そもそも、だ。コイツは始めて会ったときからそうだ。僕がマルフォイ家の嫡男だと知っても興味なさげに「ふーん」と返すだけ。瞳は妙に冷めていてこの世の全てのものに一線を引いて観察しているような、そんな輝きのない観察者のもの。面白くない。僕が折角仲良くなってよろうと思っているのに。僕に興味を示せ。僕をちゃんと見ろ。僕はお前にずっと興味があったのに。会ってみたいと思っていたのに。ずるい。不公平じゃないか。
そもそも朝食がいらないだって?朝食は一日の始めに取るべきものであって、それは栄養的な意味に留まらず…などと母親や本からの知識がマルフォイの頭の中を、本人でさえわからぬ苛立ちと一緒になってぐるぐると巡った。

「…何が“うん”だ。朝食は一日の始まりとして重要な役割を担っていて…」

だから、苛立ちと共に吐き出したその言葉にハリーがきょとんとした理由も全くわかっていなかった。ただ――

「もしかして心配してくれてるの?」
「なーんだ、マルフォイって優しいんじゃん」

その言葉に動揺した。優しい?そんな言葉を掛けてくれるのは彼の母親以外居なかった。彼の世界には、家族というカテゴリー以外には“上”と“下”しか居なくて、それ以外に分類できるものなど居なかったのだ。そんな“優しい”だなんて、同じ位置から、同じ目線で、まるで“友達”のように気軽に声を掛けられることなど――…

「う、うるさい…!そうじゃなくてこのままだとお前が授業が始まっても寝続けるような気がしただけだ!早く起きて準備しないか馬鹿者が!………、それから、“ドラコ”でいい」

ドキドキと心臓がうるさかった。始めてみたハリーの無邪気な笑みを見たことも鼓動を早める一因だった。やっと“自分”を見た、――そのことに対する喜びは彼の体温を上昇させる。
たった数分前と彼の心が違うことに、彼自身は心のどこかで気が付いていた。

今まで意識してこなかった“友達”という言葉が、彼の胸の片隅に居座り始めたのだ。


(早まる鼓動はこれから始まる学校生活への期待からか)



121024
ドラコはカッコよく主人公の瞳のことを言ってくれたけど、私のイメージではただの死んだ魚の目です。


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