ハリ男 | ナノ

「わぁ、君が“あの”ハリー・ポッターなのかい?」
「うん、そうだよ」

どうもこんにちは。“あの”ハリー・ポッターです。現在、生涯の大親友となるロンくんとの初対面中です。何て言うんだろうね、感想としては、“若い”です。別に悪い意味ではなくね。…正直若干苦手なノリではあるけど。でも、いい子であるのは例え原作読んでなくても雰囲気から伝わってくるので今後とも仲良くしていただきたいものです。

「傷見せてもらっても…いい?」
「うん、いいよ」

傷なんか見て何が楽しいんだろう、とか思ってないよ。だってボククウキヨムコ。傷を見て満足したらしいロンくんはやっぱりいい子。雑談からハグリットがプレゼントしてくれたヘドウィグが珍しいねと誉めてくれたので思わず始まる我が子自慢。

「そうなんだ!可愛いよね!俺、一目見たときからびびびっと来てさ!もう、メロメロ。ねー、ヘドウィグぅー?」

カツン!

うっさいわ黙れボケと言わんばかりに鳥かごを突くヘドウィグ。その様子にロンはすごく言い辛そうに口を開く。

「何て言うか…、君、全然懐かれてないんだね」
「!そんなことないもん!今はちょっとご機嫌斜めなだけだもん!ヘドウィグは気まぐれな女王様だから仕方ないんだ!」

カツン!

再び響く甲高い音。…ロンが何とも形容しがたい――強いて言うなら哀れみと残念な子を見る目で俺のことを見る。
うっさい!そんな目で見るなやい!俺だってうすうすヘドウィグに嫌われてるのには気付いてらぁ!
内心で言い返しながら、心の涙を流す。…でも本当、どうしてヘドウィグは俺に懐かないのだろうか。原作ではヘドウィグはハリーに付けてもらったこの名前を気に入るはずだし、ハリーの良き相棒でハリーにべったり懐いていたはずなのに。
動物は勘が鋭い。もしかして、ヘドウィグは俺が“ハリー・ポッター”であってそうでないことを感づいているとでも言うのだろうか。いや、そんなはずはない。自分の仮定を自分で否定する。その仮定で行くと、ヘドウィグはハリー・ポッターという存在に成り代わった俺以外のハリー・ポッター…、つまりは本来のハリー・ポッターを知っているということになる。そうなるとヘドウィグは俺と同じくヘドウィグという存在に成り代わった何か――ハリー・ポッターという書籍を知っていることから人間だろうと推測できるが――か、幾つかの世界を体験しているということになる。俺が児童文学の主人公に成り代わっているということを考えれば、そういうファンタジーもなくもない話かもしれない。
でももっと簡単に考えることができる。

単純に俺という存在がヘドウィグのお気に召さなかっただけなんじゃあ…?

やっばい、何それ、ちょー凹むんですけど。
あれこれ様々な可能性を考えてみた訳ですけど、これが一番しっくり来るというか妥当性があるとかもう悲しくてしょうがない。まだ世界の婉曲的な拒絶とかそういう厨二っぽい方がよかった。まさかの俺の人格の否定とか。
俺さ、原作云々とか関係なくヘドウィグに一目惚れしたんだよね。そうじゃなきゃ、会って数時間の男に誕生日プレゼントだとか言われてもそんな高価なもの受け取らなかったと思う。真っ白な毛。くりくりの瞳。知的で真っ直ぐな瞳と高貴な雰囲気に俺は一瞬で夢中になった。…なったというのに。あぁ、なんて無常。諸行無常の鐘がごんごん鳴ってる気がする。…え?ちょっと違う?ごめんね、俺完璧な理系なもんで国語は全くダメなんですよ。おまけにこの十何年間国語とかやってないもんで。大目に見てくれると嬉しいな、てへ。

「…何だよ、アイツ。嫌味なヤツだ」

俺がキモイことを考えている内にマルフォイとの会合は終わってたらしい。ロンがぷんすかしてる。…この間も思ったけど、案外物語りってのは主人公不在でも話が進むものなんですね。
一瞬何のことかわからないという顔をした俺に、ロンは何となく悟ったみたいだ。俺が来客の存在にさえ気付かないほど、ヘドウィグが懐いてくれないことに凹んでいたということに。

「まぁ、あれだよ。ヘドウィグもその内慣れてくれるよ。――…あ、そうだ、僕のペットを紹介するよ。スキャバーズだ」

ほら、君のヘドウィグとは違って薄汚いし、いつも寝てるし、最悪だろう?とロンは続ける。ロンなりの俺へのフォローであろう。本当にロンは優しくていい子なんだろう。フォローの仕方が少し間違ってる気がするけど。何かを蔑んでこれよりはマシだろう?っていうのはフォローにはならないんだよ、少年よ。
そんなこと露にも出さず、俺は笑顔を浮かべて言う。

「へぇ、何だか愛嬌があるじゃないか。スキャバーズ、よろしくね」

コイツが俺の両親を殺した裏切り者か。育ててもらった記憶もないし、正直ジェーズム・ポッターとリリー・ポッターが俺の両親である実感なんて一欠けらもないのだけど――…



(ネズミを見下ろしたその瞳は、自分でもわかるくらい冷めていた)



121005


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