ハリ男 | ナノ

人生の悟りを開いて早何年。俺は今日も今日とて“ハリー・ポッター”をやっています。

「おい、ハリー!お前はいつ見ても鬱陶しいヤツだな!」
「ただでさえ暑いって言うのにお前が居ると余計に暑く感じるぜ」

ダドリー・ダーズリーこと俺の従兄弟様が今日も今日とて手下を引き連れ俺に絡んでくる。ご苦労なこってと思いつつも、何も返さない。…めんどくさいから。
それに多分俺が鬱陶しいのは本当のことだから。前に切ったのはいつだったか全く覚えていない髪は伸び放題で目も隠れてしまうほど。それに加えてまんまるのだっさいとしか言えないような眼鏡を掛けた俺は、同年代の男の子からしたら目障りでしかないだろう。うん、しょうがない。
黙ったままで何の反応も返さない俺に構わず、ダドリー達は会話を続ける。

「そんな愚図で頓馬なハリーに今日はプレゼントがあるんだぜ」
「ありがたく受け取れよ!」
「?」

疑問符を浮かべたその瞬間。顔に衝撃。ざっぱーんっていう効果音が数秒後に聴こえてきた。ぽたぽたを水滴が垂れる前髪をつまんで、それから身体に纏わりつく濡れた服を見てようやく事態が掴めた。
…そっか、水掛けられたのか。確かに水掛けられたら涼しいよね。夏のこの時期、暑さにへばりかけていた俺としてはありがたい涼しさだった。
ダドリーって時々すごい頭いいよな。普通こんなの思いつかないよ。そして何気に優しい。鬱陶しいはずの俺に涼しさを提供してくれるんだもんな。もしかして、俺が夏バテしそうだったことに気付いてくれてたとか?うわ、だとしたらダドリー優しすぎる。
ふむふむと頷いてから、ダドリー達にありがとうと言って帰路に着こうとする。

「ちょ、ちょっと待て!」

焦ったようなダドリーの声にどうしたんだろうと緩慢な動きながらダドリーを振り返る。一体何故呼び止められたのか全くわかっていない俺に向かって、ダドリーは焦ったように口を開く。

「な、何そのまま帰ろうとしてるんだよ!」
「え?だって…」
「ここは普通何するんだよ!って嫌がるところだろうが!何で“ありがとう”とかって言うんだよ!」
「?ダドリー達のお陰で涼しいから?」
「だ、か、ら!何でそこで疑問系っ!」

だー!とじれったそうに叫ぶダドリーに疑問符は増えるばかり。ダドリーの仲間達が必死にダドリーのことを宥めて、ようやくダドリーは俺に向かっての言葉を再開した。

「…まぁ、それはいいとして、だ。もしかしてそのまま帰るつもりなのか?」
「…うん。それが何か?」

水って揮発するときに熱を奪っていく訳だからさ。今は体温のせいで生温くなって気持ち悪く感じても、もう少ししたら俺の体温を下げてくれるはず。夏なんだし、多分家に帰るまでには乾いてて、丁度いいんじゃないかな。

「何かって…っ。これから日が落ちる。そうなれば気温だって下がるんだぞ」
「…そういえばそうかも」

あれ、そしたら服、完全に乾かないかも?そしたら、俺、叔母さんに怒られちゃうんじゃあ…?それはちょっと困るかもしれないな。

「…そんな格好のままうろうろしてら風邪を引くだろうが、馬鹿が!」
「ごふっ」

ばふっという勢いで何かが顔に当たる。何だろうと顔に当たったものを確認しようとすると、それより先にそれはダドリーの奪われて今度は頭に衝撃が。

「わ、わわ…」
「全く、お前ってヤツはどうしてそうも鈍くさいだ」

もしゃもしゃと髪の毛を思いっきり乱されて、あ、俺髪拭いてもらってる?と思ったときには、ダドリーの手が止まってついでに身体も拭いてくれ始めてた。



――俺の名前は、ハリー・ポッター。某有名児童文学『ハリー・ポッター』の主人公、ハリー・ポッターのポジションに生まれ変わったオトコノコ。
本の中で意地悪でしょうもない悪がきだったダドリーは、やっぱり年相応には悪がきで、でも何だかんだ優しいツンデレでした。

(ツンデレ乙)


120902


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