ハリ男 | ナノ

うわぁー、嫌だ、言いたくないよー!
頭を抱えて叫び出したい内心を抑えて箒の上へと手をかざす。
この一言を口にしてしまうと俺は逃げることができなくなるのではないか――…?
そんな考えが湧いてくるが、直ぐに冷静な自分が言葉を返す。
何を言ってるんだ、この場に来てしまった時点で俺は逃げることなどできないのだ、と…。

そうです、皆さんご察しの通り飛行訓練中ですよ!
本当、指定された場所に来た時点で、訓練の参加は避けられない訳で、つまりは箒の上に手をかざそうがかざさなかろうがもう無駄な足掻きなんですよ!

それでも「上がれ」の一言を口にした瞬間、それこそ終わりな気がして…。

「さぁ、始めて下さい!」

マダム・フーチの声に一斉に「上がれ」の輪唱が始まる。
嫌だよ言いたくないよでも言わないと授業サボってるとかやる気ないとか言って怒られるかもしれないってか一回で上がったぜイエイってドヤ顔してるドラコウザいなちくしょう。

「あが、…らなくても別にいいけど…上がれ」

段々ボリュームダウンしていき、最後の方とかほぼ虫の息な声量だったにも関わらず箒は迷うことなく俺の手のひらの中に飛び込んできました。
従順で可愛いねって愛着持ったりなんかしないんだからねバカァ!
ハーマイオニー(だと思われる)もね、そんなびっくりした顔しなくていいからね。

軽く絶望してたら、何か騒がしくなってきた。何だと思ったら、ネビルが箒に乗って飛んでた。と、思ったら落下した。しかも、割とえげつなく。

いやぁああぁああぁぁあ!何あれ、やっぱ箒の安定性とかクソじゃないかよだって見たあれネビルの手首ぶらんってしてましたけど!マダム・フーチ大したことない的な雰囲気出してたけど何なの飛行訓練では珍しくないとでも言いたいの!?何なの本気で魔法界ってバカしかいないの?!もっと安全な乗り物開発しろよ何百年も同じ交通手段とかもっとマグル並みに便利なことに対して貪欲になれよむしろもっと命大切にしろよもぉぉおおおぉ耐えられないよぉおおぉお高所恐怖症の大反乱起こしてやるぅうううぅう!

脳内大パニックを起こしていた数分で、事態は最悪な方向へ動き出してた。

――ロンとドラコが言い争ってる…っ!

ヤダあれ、原作のやつでしょ?あの後、箒で空中戦して忘れ玉?を「取ってこーい」って投げてハリーが決死のダイブするやつでしょ?

やめてぇぇええぇえぇえ!

ドガッ

鈍い音の後、辺りは静寂に包まれた。

「ドラコがウザいこと言ってごめんね、ロン。ドラコったら、一日に三回は嫌味を言わないと死んでしまう病気に掛かっていてね。悪気はないんだ、生きるためだからね。どうか許しておくれ」
「ハリー…、別にいいけど…生きてる…?」

ロンの指差した先には、俺に背後から頭部を強打されたせいで倒れているドラコ。
爽やかな笑顔で返す。

「あぁ、心配してくれるなんて、ロンは優しいね。石頭だから大丈夫だけれど、念のために医務室に行ってくるよ。クラッブ、ゴイル、運ぶの手伝ってくれよ」

奇妙なまでの静かさ。俺以外に口を開くものはいない。まぁ、いいか。これで原作のフラグは折ったし、飛行訓練からもバックレることができる。


(恐怖は時に人の判断を鈍らせる)


140427


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -