男主用短編 | ナノ

腐れ縁、とは少し違う。
私達の関係は一方的なもので成り立っていた。

「いーないーな、アニいーな」

それが私達のやりとりの始まりの合図。
小さな頃は、私の嫌いな食べ物を覗き込んで名前がそう言うのが定例だった。私が無視してれば全身を使ってねだり始める。

「食べる?」

あまりにも五月蝿いから試しに聞いてみれば、名前は瞳を輝かせる。

「ありがとう、アニ!超嬉しいっ!代わりに俺の嫌いなのあげるね!」

嫌いだと明言したものを代わりによこしてくるのはどうかとも思うのだが、私が名前にあげたものも嫌いな食べ物なので口に出しては言わない。
不思議なもので、私が嫌いな食べ物を名前が欲しがり、名前が私に嫌いな食べ物だからと寄越したものは私が好きな食べ物だった。
食べ物だけではない。私の嫌いなものを名前は羨ましがり、名前が代わりに私に与えるものは私の好きなものばかりだった。

「いーないーな、巨人は」
「…は?」

互いに15歳を越しても、名前の羨ましがる性質は変わらないらしい。
変人だ変人だとは思っていたが、ここまでだとは。

「だってさー、巨人は壁の外を自由に生きてるんだぜ?考えたことないか?壁に区切られていない空を見てみたいって」
「そんなに壁の外に行きたいなら調査兵団にでも入ればいいじゃないか」
「あら嫌だ。俺みたいな平凡で非力な人間が調査兵団に入っても秒殺ですわよ。優秀な人しか入れないと有名な憲兵団のアニさんなら別かもしれませんけどねー」

嫌味ったらしく周りくどい言い方はいつも通りでこいつは相変わらずなのだと実感した。何故だか故郷から出てきて城壁内の商家で下働きを始めたときはトチ狂ったかと思ったものだが…。

「いーないーな、エレンってやつ」
「…」
「俺みたいな平民にも噂が流れてきてるぞ。“エレンってやつは巨人になれる”って。あーあ、羨ましいなー」

いつもの台詞に私以外の名前がついたのを、始めて聞いた気がする。名前が羨む対象は、人では私だけだと漠然と思っていた。

「いーないーな。俺も巨人になりたい」

外が騒がしい。何かあったのだろうか。憲兵団員である以上、内部の統制と維持も仕事の一つである。
未だ羨ましい羨ましいと連呼する名前を置いて、私は名前の住み込み先の商家の扉へと手を掛けた。

「代わって欲しいくらいだ」
「…え?アニ、何か言った?」
「いや。またな」

小さな声は同じ室内に居ても聴こえなかったらしい。

「あぁ、できるなら代わってあげたい。――いとしのアニ

私の声が聴こえなかった名前と同じように、扉が閉じる瞬間に名前の呟いたことに、私は気付かなかった。


130515
アニの世界に自分の居場所はなくとも、アニの世界を好きなものだけで構成することに人生の歓びを見出す男の話


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