男主用短編 | ナノ

なぁ、

その声は頼りなく耳へと届く。高圧的で神経を逆なでるためだけに出した声だと理解しながらそれでもやっぱり、リヴァイには泣き出す寸前の声に聴こえる。

「屈辱的だよなー、苛立たしいよなー?腕を払うだけで殺せるようなヤツに踏みつけられてるなんて、考えるだけで腑煮え繰り返るだろう?」

なら、殺せよ
巨人を殺すのより、ずっと楽だろう?

薄ら笑いを浮かべたまま、名前はリヴァイの頭を踏む足に更に体重を乗せた。
地面に強く押し付けられた額は、痛みよりも熱を持った。ゴリ、とどこか他人事のようにリヴァイの頭蓋骨が音を立てた。
名前の言う通り、リヴァイは名前の拘束など簡単に逃れることができる。人類最強、ということだけでなく名前自身の戦闘能力の低さから考えても、実に容易だろう。それでもリヴァイは、名前の暴力を甘んじて受ける。

「なぁ、悔しいだろう、憎いだろう、忌々しいだろう?」

リヴァイの頭はボールのように蹴られ、ボールのように跳ねる。雪崩のような激情の中に置き去りにされた、リヴァイの目は悲しいくらい平常と変わらない。

「なぁ、なぁ…、なァ。…何でだよ?何で怒らない?俺が憎くないのか?…殺せばいいだろう、俺なんか。お前に掛かれば一瞬だろう?巨人の肉を削ぐよりずーっと簡単だろう?…何で、なんでなんでなんでなんで、」

俺を殺してくれないんだ…?

涙が頬を伝うように、名前の声がリヴァイの中を滑る。

「お前は俺が殺してやる」

リヴァイの声は、出来の悪い子供に言い聞かせる母親に似て、酷くゆっくりとはっきりとしていた。



例えば、村も家族も巨人のせいで失ってしまった男が居たことだとか。
例えば、その男は壊れてしまって生きる希望は愚か、巨人への恐怖からまともな日常さえ送れなくなったことだとか。
そんなこと、どうでもいいのです。

「お前を殺すのは、俺だ」

例えば、人類最強の男が平凡な男の貧弱な暴力を受け続ける理由が、下らぬ色恋の感情からだとか。
例えば、愛してるからこそ「殺す」と囁き、愛してるからこそ一太刀の傷さえつけることができない愚かな男のことだとか。
そんなことも、どうでもいいのです。

綺麗な世界で勝手に壁を作って灰色の世界を生きている人間達には、些細でどうでもいいことなのです。

130508


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