S級ヒーロー8位となり、俺はどこに行っても“ゾンビマン”だと認識されるようになった。
それに不満はない。今までの俺の行為が評価されての結果だ。不満に思うはずがない。
「いらっしゃいませー。…あ、お客さん、お久しぶりですー」
深夜に不釣合いなほど明るい空間に足を踏み入れれば、気だるさの隠し切れない声が俺を迎えた。
「あぁ、久しぶりだな」
「えっと…、二週間振り?でしたっけ?出張にでも行ってたんですか?」
「まぁそんなところだ」
深夜なのをいいことに、俺達は下らない会話を続ける。何回か行っただけだったが、いつの間にか俺は顔を覚えられていて、気が付いたらこうして下らない話をするようになっていた。ヤツはどうやら俺がヒーローの“ゾンビマン”だとは気付いていないようで、何の気負いもなく話しかけてくる。
それは、“ゾンビマン”でもなく“サンプル66号”でもなく、ただ“平凡などこにでもいる男”になったような、不思議な気分を味合わせてくれた。
「お客さん、相変わらず甘党ですねー。その顔でショートケーキとか」
「笑うな。疲労回復には甘いものだろうが」
「あー、はいはい。そうですねー」
じゃれ合うような軽口の応酬も、俺にとっては心地よいものだった。
いつまでも続くと、そう思っていた。
「ちょっと聞いてくださいよ!」
「…どうした?」
その日、俺がレジまで行くのも待てないというように話しかけてきたヤツの目は、輝いていた。
「俺、ヒーローになったんです!」
「……、そうか。おめでとう」
「ありがとうございます!いや、俺もね、まさか合格できるとは思ってなかったんですよ!でも、俺、昔からヒーローに憧れてて…!」
憧れのヒーローの仲間入りに、興奮を抑えることができないらしい。際限なくヒーローへの憧れを話し続ける。
「じゃあ、俺がピンチのときは助けてくれよ」
子供のようにはしゃぐ様子が微笑ましくて、軽い気持ちで言った。
「もちろんですよ。俺はヒーローですから」
笑顔での返事に俺も笑顔を浮かべた。
何故、俺はあんな馬鹿なことを言ったのだろう。
そんなつもりはなかった。
冗談のつもりだった。
俺よりも下級なのに、俺のことを守ってやると言う様子がおかしくて、
いつか自分の間違いに気付いたときに笑いのネタにしてやろうと、
そんな幸せな未来が来ることを信じて疑わなかった。
なのに、
「何故俺を庇った!!」
何故、俺と怪人との間にヤツがいる――?
「へへ、だって約束したじゃないですか…。…ピンチの、と…きは…、助ける…って…」
腹に穴が開いてなお、へらへらと気の抜けた笑いを浮かべて言う。
簡単な戦いのはずだった。
攻撃をしている最中、した直後が、一番隙が生じる瞬間だ。
だから、わざと攻撃を受けようと、
こんなはずでは、
そんなつもりでは、
何故
どうして
揺らいだ身体に力はなくて
流れる血液と一緒に体温も流れていく
俺が最初から“ゾンビマン”だと言っていれば起こらなかった事態なのだろうか
俺が“ただの人間”気分を味わいたいだなんて思わなければ、コイツは死ななくてすんだのだろうか
嘆く疑問に答える声はなく
それでも彼はヒーローとして生きていかねばならぬ
130404
ゾンビマンは甘党だと信じている