男の子はいいよね。
“王者箱学”のIHメンバーに2年生ながら選ばれる、そんな名誉を「俺、辞退してもいいっすか」なんて辞退しても、いじめられたりしないんだもんね。
ウザいとかキモいとか言い合えるもんね。
喧嘩したって、仲直りできるんでしょう?拳で語り合えば、昨日の敵は今日の友になるんでしょう?
いいな
いいな
休み時間の度、自分は行きたくもないのに一緒にトイレに行って?
興味もない芸能人の話題についていけるように、遅くまで起きてドラマ観て?
お金ばかり掛かるメイク道具とか必死に揃えて?
趣味でもないストラップとかぬいぐるみをお揃いで買って?
そこまで捧げて手に入れた友達にも、本音は決して言ってはいけないなんて。
「私は前の方が好きだったな」
そんな一言で、全部が全部なかったことになるなんて。
友達が髪を切った。
でも、私は、前の方が好きだった。
だから言った。「私は前の方が好きだったな」って。
「なにそれひどーい」「似合うって嘘でもいいなよー」「え、嘘でもってなによー!」みたいに、いつものやりとりが始まると疑わずに。
私の言葉が、その場に落ちたとき、空気が凍った。誰も拾ってくれずに落ちた言葉は、私の元から去っていく友達“だった”子に踏み潰されて、砕けた。
次の日から、女子の中に、私の居場所はなかった。
話しかけても、無視された。
私の存在なんて、最初から居なかった、みたいだった。
「女子こえー」と言った男子の言葉に、俯いた。
本当にね。
女子はコワイね。
女子に無視されても、何人にかの男子はいつも通りに接してくれた。
その中に特に優しく声を掛けてくれる人が居た。
私が辛いときに決まって現れてくれるその人に、惹かれた。
好きになった。
いつか、いつか。私へのこのイジメとも言えない“仲間外れ”がなくなったら、その人に告白したいと思った。隣に立っても笑われない私になったら。きっと。
「隼人?」
幼馴染の肩が、びくりと跳ねた。
振り向いた肩越しに、私の鞄が見えた。
私の視線に気付いて、隼人は気まずそうに下を向いた。
「悪ぃ。おめさんが帰ってくるまでに、どうにかしたかったんだが…」
鞄の中を見た。
雑巾を絞った水で、教科書がべちゃべちゃにだった。
たくさんのゴミクズが入ってた。
――ねずみの死骸が、入ってた
「ひっ…!」
思わず後ずさった、私の背中に隼人の身体がぶつかった。
「大丈夫か、名前」
「っ、もうやだ…!××くん…!」
助けて
助けて
助けて
その願いが届くことはなかったけれど。
次の日から、私は男子にも無視されるようになった。
もちろん、あの人にも。
私が、ねずみの死体を持ち歩く女だって、噂が広まってた。
よく言うよね。自分達でやったくせに、さ。
男の子はいいよね。
こういうとき、直接言ってくるよねきっと。
喧嘩だってもっと単純なものだよね。
仲直りできなくても、周り巻き込んで全員で無視とか、しないよね。
いいなーいいなー
男の子はいいなー
昼夜問わず、分厚いカーテンを締め切って、布団を被って耳を塞ぐ毎日なんて、男の子だったらきっと、送らずにすんだ。
幼馴染と同じようにキラキラした青春を、送れるはずだった。
いいなーいいなー
男の子はいいなー
友情とか、恋とか、人並みにしたかった。
「名前、」
でも同情されるなんてまっぴらごめん
「来ないで!!」
ノックの音を拒絶する。
「はやとはいいよね、ぜんぶもってるじゃない。ともだちだってろーどだって、…おんなのこにだってもてる。わたしがほしいものはぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶもってるじゃない。わたしになんかかまってないで、じぶんのいるところにかえりなさいよ!」
ドアの開く音。
「こないでこないでこないでこないで!!
はやとはおとこのこで、わたしがほしいものぜんぶもってるくせに!わたしだってほしいのに!ずるい!おとこのこはずるい!どうせわたしのことなんかいつかおいていくくせに!」
「置いてかねーよ」
ベッドが沈んで、私の体も斜めに傾く。
「俺が欲しいのは、いつだって名前だけだよ」
布団が、私を圧迫してくる。
ひゅっと、喉が引きつった。
「ほんと?」
「ホントだ」
「おいてかない?」
「置いていかないさ。ずっと好きだったんだ」
「ひとりにしないで」
「当たり前だ。もう放すもんか」
圧迫が強くなる。
あぁ、そうか。私は、布団越しに、隼人に抱きしめられているんだ。
「はやとぉ…」
子供みたいに泣き出した私を、隼人は、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
後ろの正面だぁれ?
「つかまえた」
弾む声は、私の泣き声にかき消され、誰に届くこともなかった。
140728
ネタより
若干イメージ違うだなんてそんな…