「30歳を過ぎてもお互い独身だったら、俺がお前のこともらってやるよ」
「30歳を過ぎてもお互い独身だったら、お嫁に行ってあげてもいいよ」
そんな軽口を言い合っていたのは今から7年前。
狭い箱庭にも似た学校の中で。
付き合ってはいなかった。
お互い彼氏も彼女もいなかった。
けれど、親しい友人がほぼ被っていて、部活も同じで。
アイツの一番親しい男友達は俺で
俺の一番親しい女友達はアイツで
気があったし、価値観も似てた。
だから、軽口だったけど、割と本気だった。
アイツとなら、温かい家庭を築けると思った。
子供みたいなヤツと子供を育てたら…、きっと俺ばっかり苦労するだろうけど、それはそれでいいかって思ったんだ。
「見て見てじゃーん!」
同窓会で会った彼女の薬指には、指輪が光ってた。
「、え、何、どうした?どっきり?」
この間会ったとき、彼女は振られちゃったと言って笑っていた。
お前って見た目はそこそこ可愛いのにてんでダメだよな、うっさい馬鹿、と軽く交わしたはずだ。
貰い手が付かなかったら、俺がもらってやるよってそう言って…、
「この度無事に婚約することができましたー!慎吾にはいっつもいっつも、失恋の愚痴ばっか聞いてもらっちゃってごめんね。でも、もうないから大丈夫だよ」
「どうだかな。そんな大口叩いて、泣きついてきたって知らないからな」
「泣きつきませんー。それより、慎吾こそ早くいい人見つけなよ?私はもう、あんたのお嫁さんにはなってあげられないんだからね」
「、そうだな」
軋む心などないかのように、顔はいつも通りの笑みを浮かべる。
「慎吾ー、」背中から掛かる声に、俺はようやく彼女に背を向けることを許された。
「慎吾聞いたか?前チン、今社長やってるんだってよ!しかもこの間やり手社長とか言って雑誌に載っ…、慎吾?」
「…あはは、ヤマちゃん、名前、結婚するんだってさ」
「え、嘘、マジ!?…あー、うん、でも名前って性格いいし、働き者だし、可愛いもんな。ないってことはないか」
そう。ないってことはないんだよな。
野球が好きってだけで、野球部のマネジになってさ。部員目当てだと思われるのが嫌だから業務連絡以外で話し掛けないで下さいとか言い出すような、失礼で無礼だけど、真っ直ぐで裏表のないヤツ。
おっちょこちょいで馬鹿みたいなミスもするけど、そのミスを帳消しにしても余るくらいの努力をするヤツ。
笑うと、右頬にだけえくぼができて、それが最高に可愛くて。
名前の魅力をあげようと思えば幾らでも出てくる。
そうだよな。
俺がこんなに知ってるんだ。
その魅力に気付くのが俺だけだなんて、何でそんな勘違いしてたんだろう。
「…もしかして、慎吾、名前のこと好きだったの?」
「いや、それはない」
好きではなかった。
好きまでは、いってなかった。
でも、
「隣で見たかったな。…名前のウエディングドレス」
きっと綺麗だったんだろう。
恋になれなかった欠片
「…っ、よし、慎吾!飲もう!今日はとことん飲もう!」
「ヤダよ、俺、明日も仕事だっつの」
140311