食堂 | ナノ

「……デカ」

“ようこそ、大川学園高等部学校祭へ”という文字が躍るアーチを見て、思わずそんな声が零れてしまう。
いや、でかすぎじゃないか、ここ。

私の常識では考えられない門の大きさと、その敷地。
少なくとも私の知ってる高校はこんなにも広くはなかった。

大川学園高等部――私はきり丸との約束を守って、学校祭に来ていた。
大学とは離れたところに高等部の校舎はある。場所くらいは何となく知っていたけど、こうして訪れたのは始めての私はその広さに唖然としていた。
そして、人の多さにも。

え、何、この人の多さ。これって規制してこの人数ってことだよね?多くね?
…これ、このまま帰っちゃダメかな。すごく帰りたい。あぁ、でもダメだ、きり丸に行くって約束した上に、孫兵とも約束してるんだ。
約束破ったりしたら、いろいろめんどくさいことになりそうだ。…あぁぁあ、めんどくせー…。

ため息を吐きながらもちゃんと足を進める私。
入り口で受け取ったパンフレットに目を通しながら、どこから回ろうかと考える。きり丸は演劇をするからそれを見に来て欲しいって言ってたな。えっと…、一年七組の演劇は…「ドケチ姫」?で…午後からなのか。今は午前中だから…、じゃあ孫兵のクラスの展示から見に行くか。
孫兵のクラスの展示見に行ったら適当に昼食取って、本番前のきり丸のところに顔出して、きり丸の劇見て、…うん、私の任務完了だね。

と、決まれば孫兵のクラスの展示だ。
三年一組のクラス展示は…。
パンフレットの地図で場所を探す。その間にも足は流れに乗って進んでいる。
こんな人込みの中、立ち止まったりしたら迷惑が掛かるだろうと歩きながら地図を見ていた訳だけど…、ダメだ、わかんない。ってか、適当に歩いていたから今自分がどこにいるかも自信ない。
一旦流れから抜け壁際の方に寄る。…えっと、今目の前にある屋台は…“保健委員会のドキドキ包帯くじ”だから…、この辺か。で、孫兵のクラスに行くには…。
…………わかんない。

少しだけ弁解させてもらうと、私は方向音痴ではない。
ただ、ここの敷地が広すぎるだけだ。

現在地が何となくわかったところで、気が付く。後少し行ったところに生徒会の“総合案内所”があるということに。
やっぱりこれだけ敷地が広すぎると、迷子になる者も出てくるだろう。総合とは言いつつもきっと、道案内だってしてくれるはず。私は真っ直ぐそこへ向った。



「あの、すいません」
「はーい、何ですか?」

目がくりくりとした、背の小さな男の子が出てきた。一年生かとも思ったが、その腕には“生徒会長”の腕章が付けられている。
…人は見かけによらないものだな、なんて失礼な考えを頭の隅に寄せると早速本題に入った。

「三年一組の展示に行きたいんですけど、道がわかんなくて…」
「三年一組ですね。三年一組はですねー、あっちの道を真っ直ぐ行って…」

ジェスチャー付きで丁寧に説明してくれる生徒会長さん。ふんふんと相槌を打ちながら頭の中に道順を叩き込む。…それにしても何て複雑な道。これは地図見ただけじゃあ、絶対に辿り着けなかったな。
よかった、人に聞いてみて。

「どうもありがとうございました」
「いえいえー、どうぞ楽しんでくださいねー」

ひらひらと手を振って見送ってくれる生徒会長さんに頭を下げて、教えてくれた道を歩き出す。
えっと、真っ直ぐ行って、それから右に曲がって――……



「神崎先輩、今戻ったっすー」
「おう、団蔵、もういいのか?」
「はい、スッキリしたっす。すいませんでした、一人で当番任せたりして」
「あはは、気にするな」
「誰か来たりしました?」
「きれいなお姉さんが一人来たぞ」
「えっ、きれいなお姉さん!?神崎先輩ずっりぃの!」
「残念だったな」
「ちぇー。…で?そのお姉さん何の用だったんですか?落し物とかですか?」
「いや、道に迷ったらしい」
「…え、」
「三年一組への道を聞かれたからちゃんと教えておいたぞ」
「……神崎先輩が?」
「?私しかいなかったんだから当然だろう」
「………そのお姉さんに悪いことしちゃったなー…」


私が去った後、そんな話がされていたなんてこと露知らず。

私は――…



「ここはどこだ」


いつまで経っても辿り着かない教室の場所に首を傾げていた。
何でだろう、あの生徒会長さんの言った通りだと、目の前に階段が見えるはずなんだけど…?
今、私の目の前には壮大な庭が広がっている。…何故に?
ここは中庭だろうか。四方を校舎に囲われている箱庭のような場所。中央に大きな木が一本植えてあり、校舎の方には背の低い木が植えてある。花壇もあり、控えめながら咲いている花々は、きっと生徒達の心に潤いの場を提供しているのだろう。
高い校舎に阻まれながらも確かに届く太陽の光は何とも、不思議な雰囲気を与えていた。

…道に迷っちゃったけど、なんかすごく素敵な場所だなー。
どうしよう、早く孫兵のとこ行かなきゃいけないんだけどなー…。…でも、素敵な場所。

――少しならいいかな?

しばらく悩むが結局誘惑に負けてしまう。道が全くわかんないから早めに行動すべきなんだろうけど、逆に言えばわかんないもんはわかんないんだから少しくらい寄り道したってそんなに変わらないだろう。
うん、いざとなったらきり丸に電話すればいいよね。

大きな木の近くに行くと、周りをゆっくりと歩き出す。大きな木だったりその大きな木を取り囲む校舎だったりを、ぐるぐると回りながら見ていく。
あ、あのコントラストきれー…。

「っ!いった!」

…ん?あれ、私今なんか踏んだ――…?

そう思うのも、一瞬で、私は何かの上に倒れこんだ。


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