テレビの画面越しに見る彼はとても美しかった。

ドラマの撮影で地方へ行っている彼とは一か月ほど連絡を取っていない。
不安があるわけではない。
これと言って寂しいわけでも、ない。
ただ、ドラマのキスシーンを見るのにはやはり抵抗がある。
昔から束縛されるのが嫌いだったわたしは恋愛事が滅法苦手だった。
今まで上手くいった恋愛はない。
いつも可愛げがないなどと言われて別れを告げられる。
気持ちを言葉にするのは苦手だ。
彼はそんなわたしの気持ちをいつも汲み取ってくれるのだ。
会いたいと思わない、と言ったら嘘になる。
でも口にはしない。
重たい女だと思われたくはないから。
もうすぐ戻ってくるのかなんて思ってカレンダーを眺めていると玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると彼がいる。
予定より早いご帰還だ。
「おかえり」
少し驚きながら迎え入れると腕を引かれ抱きしめられる。
彼の腕の中は居心地が良い。
どこにも行きたくなくなるし、どこにも行けなくなる。
会いたかった、と耳元で小さく囁かれるその声はどこか憂いを帯びていた。
わたしは二度目のおかえりを言った。
「ただいま。変わりないか?」
ないよ、と答えれば彼は眼を細めた。
「あのキスシーンはフリだ。心配は要らない。」
「分かってるって」
まるでわたしの頭の中を知ってるみたい。
貴方にはみんなお見通しねなんて余裕のあるふりをして言ってみる。
「ならばいい。お前の事だから一応、だ。」
額にキスを一つ落とされる。
「カミュ、好きよ」
わたしは額から離れた唇に口づけた。



アトガキという名のいいわけ

初のカミュさんです。
なんとも言えない…




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