英国の町が闇に沈んだ頃。
部屋にノックの音が響く。
扉を開ければそこには悪魔がいた。
「どうぞ?」
彼女は躊躇い無く彼を招き入れる。
「久しぶりですね。」
綺麗ながらも生活感のある部屋を見渡した。
「そうね、紅茶でも淹れましょうか。」
「いえ、私は悪魔ですから。」
お気遣い痛み入ります、と彼は微笑む。
「そう。悪魔は何も要らないんだっけ。」
死神は人間と変わらないから不便だわ、と呟いた。
「いっそ悪魔になってしまわれたら?」
「無理ね。」
ポットにお湯を注げばひょい、とポットを取り上げられる。
「私が淹れましょう。」
「紅茶を嗜まない悪魔の淹れる紅茶が美味しいなんて不思議よね。」
紅茶の入ったティーカップを受け取り、冷めるように息を吹きかけた。
「坊ちゃんに仕込まれましたからね。」
「貴方はホント、シエル一筋ね。」
「まあ、そうですね。」
紅茶色の瞳が細められる。
名は紅茶に砂糖を落とした。
「ミルクはいかがです?」
「要らないわ。」
「時に、名は私が本当に坊ちゃん一筋だと思いますか?」
セバスチャンの瞳は伏し目がちにティーポットを見つめる。
「さっき肯定したじゃない。」
違うの?、と名は首を傾げた。
「坊ちゃんは私の主人です。ですが・・・」
「ですが?」
「私は貴女も大切に思っていますよ。」
彼は笑みを浮かべて名を見る。
「悪魔が死神を?可笑しな話ね。」
「愛に形は無い、と言ったのは人間ですよ。」
一番ひ弱な人間が言うのだから私達も例外ではないでしょう、と付け加えた。
「そうかもしれないわね。」
テーブルにカップを置き、セバスチャンに抱きつく。
「どうしました?」
「どうもしないわよ。」
もうすぐ夜が明ける。
「そろそろ戻らないといけませんね。」
「もう?」
「ええ。何かと準備がありますから。」
仕方ないわね、と名は名残惜しそうに体を離した。
その黄緑の瞳は酷く哀しそうで。
名を抱き寄せた。
「淋しいですか?」
「淋しくなんかないわよ!!」
大きな瞳で睨みつけ頬を真っ赤に染めてセバスチャンの胸板を押す。
「正直に云えばいいものを。」
セバスチャンは名を更に強く抱きしめた。
「うる・・・さい」
「私も申し訳なく思っているのですよ、貴女に淋しい思いをさせて。」
「淋しくないって。」
黄緑の瞳が、揺れる。
「私は貴女を愛しています。誰と契約を結んでも、です。」
「分かってる。」
「今夜も訪れて宜しいですか?」
強請るような、紅茶色の瞳。
「仕方ない、わね。」
「では、今夜も伺わせていただきますね。」
「はいはい。早く帰りなさいよ。」
深々と頭を下げた執事は主人の元へと帰っていった。

Black cat

気まぐれで、気丈で。
そして弱く脆い。
愛おしい貴女。



アトガキという名のいいわけ

猫みたいな女性がテーマ。
脱退組死神と悪魔の禁断の恋をイメージ。





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