さよなら、愛しい貴方。

静寂

開け放った窓からは空が見えた。
濃紺の闇に星が瞬いている。
「名」
シャワールームから出てきた男に名を呼ばれた。
「劉、もう行くの?」
「うん。」
名はベットから体を起こす。
劉の目は相変わらず伏せられたまま。
その瞳に映るのが嘘か真実か。
彼女にはよく分からない。
「また会える?」
「そうだね、名が我に会いたいと思うのなら」
きっと会えるよ、と劉は名を抱き寄せた。
「そう、ね。」
次に会える確証など無い。
中国服からは劉の匂いがした。
時が止まってしまえばいいのに、と思う。
決して口には出さない。
出せるはずがない。
「名が眠るまではここにいるよ。」
ゆっくりお休み、と。
ベットに寝かされ、子供にするように頭を撫でられる。
静かに目を閉じればいつの間にか朝だった。

陽はまだ昇っていない。
温もりがあったはずの場所に手を置く。
置手紙の一つもない。
一筋の涙が頬を伝った。



アトガキという名のいいわけ

タイトルはしじまと読みます。
モチーフはkalafinaの『輝く空の静寂には』。




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