英国の雨は、冷たい。

石畳に傘の花

いつの間にか見慣れてしまった古びた店のドアを開く。
「いらっしゃい。」
待っていたよ、と棺に座る男が云った。
「久しぶりね、葬儀屋。」
「そうだねぇ。一週間ぶり、かな。」
高い笑い声を上げ、彼は立ち上る。
紅茶を淹れてあげよう、と。
「出張だもの、仕方ないでしょ。」
疲れきった様子の名は無遠慮に棺に腰掛けた。
キッチンから戻ってきた葬儀屋は紅い液体の入ったビーカーを手にしている。
「お飲みよ。」
奇妙だ、と感じたのはもう昔の話。
ビーカーを受け取り、紅い液体を躊躇い無く口へ運ぶ。
葬儀屋は蓋の開いた骨壷を差し出す。
「ありがとう。」
骨壷から取り出したのは、骨の形をしたクッキー。
「さっき焼きあがったんだよ。」
「そろそろこんな悪趣味な入れ物に入れるのやめたら?」
クッキーはいつもと変わらず美味しくて。
軽い皮肉を吐いてみた。
「小生は気に入ってるんだがねぇ。」
彼はまた高く笑う。
名も嫌いじゃないんだろう?、と。
「好きでもないわ。慣れよ、慣れ。」
「慣れたならいいんじゃないかい?」
それとこれとは別問題よ、と名は紅茶を飲み干した。
空になったビーカーが二つ。
棺の上に寄り添っていた。



アトガキという名のいいわけ

二人は恋人設定、です。
初書になりました。
葬儀屋さんかっこいいですよ、はい。


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