訓練を終えて、さらに自主トレをしてからバーに行ったらゲルガーと一緒にミケさんが呑んでいた。
カウンターでビールとつまみをいくつかオーダーしてゲルガーに声を掛ける。あとミケさんにも挨拶。
「ごめん。遅くなった。ミケさん、今晩は。お疲れさまです」
「おーお疲れ!ミケさーんまたコイツ筋トレしててこの時間ですよ!」
「それは本当にお疲れ様だな。」
「今日は柔軟とジョグだよ。ゲルガーみたいに好きなように酒を飲んでても優秀ならいいんだけどね」
「はっはー!誉められると酒が進むじゃねぇかよー」
「フッ。お前は幸せだな。」


ビールとピクルスに兎の干し肉にナッツが運ばれてきて、3人で乾杯。

ビール瓶を口にあてるとゲルガーに、まてまてと制止される。
「なに?無粋だね」
「無粋はお前!やっと言える!お前、のどごしってわかるか?」
「最初の一口で、喉がしゅわしゅわ、ビールが美味い。とか?」
「そうだ!でもお前は知らない。本当の喉ごしを!」
「ビールの宣伝みたい。おじさん宣伝ガールゲルガー。」
「知って欲しい、本当の喉ごしをあなたに!」
「裏声きもいー!なになに?…ああ!髪を払ってるポーズか、はいはい。ぶっ!胸よせんな!」
「リーネのまねー」
「ぶっ。…はっはっは。」
あ、ミケさん笑った。くだらないことでも笑うのね。良かった。


「だから、喉の奥まで入れてごっくんするんだって」
「え?こう?んっ。げへっ。」
飲み慣れないやり方に上手く行かず口からあふれるビール。ああ!勿体無い!
「だーっ下手くそ〜」
「説明がね!」
「説明…って。ミケさんこれ以上の言い方ありますか?」
「…喉に直接流し込んでごっくん。」
「ですよねー。あー…もっと口を使わずに?喉の奥に溜めて一気にごっくんてするの。こぼしたらだめだからな。」
「喉の奥でごっくん…ね。こぼさないように…」
「…ぶっ(真剣?なんだよな2人は。卑猥な言葉に聞こえるのは俺だけか?)」
「いいか、こうだ。」
瓶を傾けるとビールがみるみる減っていく。なのに喉が上下しない。えっ?なんで?しばらくして大きく喉が上下する。
「くーっ!美味い!わかったか?」
本当に幸せそうだなこいつ。
「こうだ。」
ミケさんもやって見せてくれる。喉仏も大きいんだな…ゆっくり上下するのにみとれる。
「どうだ?」
「かっこいいですね。ミケさん」
「っげほっ。あ、ありがとう。」
「ぶっ。お前、見るとこ違げーよ!でも分かる!確かにミケさんはかっこいい!俺も見とれちまった!なんだよ!この上背!厚い胸板に広い背中…ひげかっこいい…!」
「ゲルガーよしてくれ!わかったから、ありがとう…。」
「ミケさぁん!」
「暑苦しい!離れろ!」
「ゲルガーその辺にしなよ!怒るよ!ナナバさんが!」
「いや、俺も怒るぞ」
「あ、あはは。そうですね。ミ、ミケさんが怒るぞー!」
「ミケさんになら怒られたいっす!男は叱られて大きくなるんです!」
「きもい!!」

思わずお尻にミドルキックをお見舞いする。重い手応えにズパンと実にイイ音が鳴って肌がぞわりと粟立つ。
決まった!


「ぎゃっ」
「うっ」


男の呻き声×2…しまった…


「おい。何故俺まで蹴るんだ。ゲルガーが巻き付いたのがサンドバックに見えたか?」
「…すいません。勢いで…」
「暴力はいけない。」
「ミケさんを助けたくて」
「明らかにかっとなってやっただろう。お前。さっき勢いって言ったじゃないか。」
「ちっ。すいません…私のお尻蹴ってもらって構わないんで…」
「何故、そうなる!?」
「お前!ミケさんに蹴ってもらう為に俺をダシにしただろ」
「そうなのか?!」
「そんなわけないじゃないですか!何を好んでお尻蹴られたい女の子がいますか?そのくらい反省してるんです私!ゲルガーと一緒にしないでください!」
「け、図星か。」
「少し黙っててもらえるかなぁっ!誤解されるじゃん!バカ!バカゲルガー。」
四つん這いになるゲルガーをげしげし踏みつける。
「その辺でやめておけ。お前、もう少し走ってきたらどうだ?本当に訓練の後の自主トレ帰りの体力なのか?恐ろしいな。」



「やあ、ミケ。ごきげんよう。うちのがお騒がせしてるみたいだね」


「ナナバ!」
「ナナバさん!?」
「…ナナバ。遅いぞ。」
「なかなか楽しそうなことになってるね。ゲルガー立てるかい?」


「お前の班はまったく愉快班だな。」
「ぶふーっ!あっはっはっ。」
「なんだ!?何も笑うとこじゃないぞ。」
「いや、だって、愉快犯て。愉快な班て。上手いです!ミケさん最高。あはは。」
「…笑い上戸か?」
「ミケ、ごめんね。この子、オヤジギャグに弱くてね。ふふっ。」
「…お前ら、班員全員で俺をからかって遊んでいるだろう。」
「そんな、むっとしなさんな。怖い顔が台無しだよ?」
「そうですよ。あっはっは!」
「ナナバ、わざとだな?わざとだろう?たのしいか?」
「ええ。とっても。今日のミケはとても面白いと思うな。」


じゃあ酔っ払いは私が送っていくから、とゲルガーの首根っこをつかんで笑うナナバさん。
まだ飲み足りない!と騒ぐゲルガーに私がつき合うよ、朝まで。と黒い笑顔を向ける。
ゲルガー。生きて明日会おうね…。
合掌。


「あ〜あ。結局喉ごしが分からぬままです。まあ、いいか」
「せっかくだし。次の機会のためにマスターしとくのはいいかもな。」「じゃあ、練習付き合ってくださいね。」
「乗りかかった船だ。脚が飛んでこなければいくらでもつき合うぞ。」


冷たいのをもらおうか。
カウンターに向かうミケさんの背中はゲルガーの言うとうり広い。かっこいいな。
それになんだかミケさんはイチジクみたいな緑の澄んだ甘さの匂いがして、木に登って遊んでいた小さいときを思い出して懐かしくなった。
だから、昔からの知り合いみたいな気軽な気持ちになってしまう。


それでも取り返しがつかないけどミケさんを蹴ったり、舌打ちしたり、目の前でゲルガーを踏んだことに何故だか軽く後悔している。
これから挽回できるかな?


ふっと指先に影が落ちる。
「おかえりなさい」
混んで来たな、とテーブルにビール瓶を置いて辺りを見渡すミケさんに耳打ちしようと思うけど背伸びしても届かない。ふらつく私に気付いたミケさんが、小さく笑って耳を近づけてくれた。ミケさんの髪が鼻に触れてどきりとする。どきどきしながらそれでもゆっくり耳元でささやく。


「ミケさん、私、喉ごしの他にも覚えたいことできたんですけど」


ミケさんはどこまで私に付き合ってくれるかな?
ちょっと楽しくなってきた。



ナナバの班は愉快班



130901





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