夏の夜も半分を過ぎる頃にはゆるい夜風にも涼しさがあり随分と過ごしやすくなる。
鈴虫の音色もちらほら聞こえてきて、そう言えば酔っぱらったミケが「夏の夜の静かだけど小さくがやがやした感じが好きだ」と言っていたことを思い出した。
酔っ払いだし、小さくがやがやの意味が分からなくて「ふーん」と流したことを今更少し悔やむ。


窓からちらほら光が見えはじめたので、夕飯の片づけもそこそこに家を出た。


ランタンの灯りが足下を心許なく照らす。兵舎を出るときはちらほら見えていた光が、目当ての丘に近づくにつれて光の隊列となる。暗がりにざりざりと足音ききながら、去年は一緒に歩いて仲間を送ったのにと、戻ってこない隣の不在を思って悲しくなった。



丘の上までは行く気になれなくて中腹辺りで天灯に灯りを灯した。
手の内にある円筒形のランタンみたいなものは、底だけ穴が空いていて、竹で骨組みが組んであり、それにぱりっとした白い紙を張り付けてたとても軽いものだ。魂は皆等しく同じで軽いらしい。ミケの体は大きくて肩とか腕も太くて硬かったのに。優しい低い声でゆっくり話す彼の言葉に耳を傾けるのが好きだった。


火を灯すと紙を通した灯りはぼんやりと暖かくて、揺れる灯りの暖かさが体を撫でて私の輪郭を揺らす。灯りが揺れる度、まるでミケが今寄り添っていて優しく話しかけてくれているみたいだと思った。

ふわりと天灯が手から離れてふらふら胸の辺りまでゆっくりと上がってくる。


「もう、もどっちゃうの?」


冗談ぽく明るく話しかけたまではよかったけど、声の力のなさったらなくて、自分の声に驚いて悲しくなった。
だけど不思議なことに、天灯は目の前でゆらりゆらり揺れた後、ぴたり、とほんの一瞬ととどまった気がして、息が詰まった。灯りを捕まえて抱きしめてしまいたかった。


すうっと暗い暗い夜空を静かに真っ直ぐ登っていく淡い天灯にさよならを告げる。


「また、来年帰ってきてね。」

見上げた夜空にはそれぞれが故人を弔うための天灯がいっぱいに広がってそれぞれが魂だと思うと美しいなと、ただただ見とれていた。ミケもみんなと一緒に戻っていったのかな?だったら淋しくないよね。なんて残された私は勝手なことを考えた。


「あなた達のことは忘れないからね」いつの間にか隣に居た小柄なメガネの女の子が灯りを見つめながらぽつりと呟いた。
瞳は淡いオレンジ光で揺れていて、遠く離れてゆく光をじっと見守っていたけど、はっとして「バカだね」とふわり小さく笑った。その拍子に大きな目からは涙が一筋こぼれて頬に跡を作っていった。


大切な人は居なくなってもちゃんと私達を笑顔にしてくれるししっかり上手に泣かせてくれるんだなと思った。




またこの胸に戻っておいで



130815






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