(※女体化マス)
我が家に帰ると、ナマエがいました。 「ッなん……!?」 「あ、ノボリおかえりー!」 「こ、こんばんは!お邪魔してます!」 どういうことでしょう。なぜナマエがこの家に? 想定外の事態に言葉を失い、打ち上げられたトサキントのようにパクパクと口を開閉するしかできないわたくしを見て、クダリとナマエが意味深に目配せしながらクスクスと笑いました。……なんでしょう、この蚊帳の外感。胃の辺りがムカムカ致します。 「今日はね、ナマエに泊まってもらうんだー!」 ッこの愚妹……!!そういう重要なことは早めに報告しなさいと普段から口をすっぱくして言っているのにこの始末。 しかもよりにもよってナマエがお泊りにくることをわたくしに知らせないだなんて……!これはもはや計画的犯行だとしか思えません。 ああ、どうしましょう!ナマエが来るとわかっていたならもっと部屋を綺麗にして晩御飯だって手の込んだものを振舞って差し上げたかったのに!!「わぁ、すごい!これ全部ノボリさんが作ったんですか?」「えぇ、左様でございます。あなたのお口に合うかはわかりませんが」「すっごくおいしいです!ノボリさんってお料理上手なんですね。毎日作ってもらいたいくらいです!」あああそんないきなりプロポーズだなんて大胆過ぎますナマエですがわたくしあなたのもとにならいつでも嫁いで行く準備はできておりま、 「じゃあ今から僕たち部屋でないしょのお話するから!ノボリは立ち入り禁止ね!」 「!!?」 「あ、あとご飯はナマエと外で食べてきちゃったから僕たちの分はいらないよ!じゃあねー!」 なっ、何と言うことでしょう……!! 天使の皮を被った悪魔とはまさにわたくしの妹のこと。 ニコニコと人畜無害な笑顔を浮かべたクダリが、「失礼します」と小さく頭を下げたナマエの腕を引っ張って、あっという間に自室に連れ込んでしまいました。 (この!!!泥棒ネコ!!!!) 思わず昼ドラのような台詞も出てしまうというもの。 そもそも先にナマエに目をつけたのはわたくしでしたのに、クダリときたら後から出てきたくせにいつの間にかナマエとお互いの部屋を行き来するほど仲良くなって、仕事中にもベタベタベタベタ……!!羨ましいにもほどがあります!!! しかし生来の気質上わたくしがそれを素直に伝えられるはずもなく、つい必要以上に厳しい言葉でたしなめてしまうのですが、ナマエを畏縮させてしまうだけでクダリには効果がないときました。ええ、全くの手詰まりでございます。 (ああ……ですが、怯えつつも懸命にわたくしに笑顔を向けてくれるナマエこそまさしく天使……!!やはりわたくしの目に狂いはございませんでした!!ナマエこそ、わたくしの天使!!!) そんなことを考えてささくれ立った気持ちを落ち着けつつ、インスタントのカップ麺を啜りました。お察しの通り、ナマエが召し上がってくださらないと判明した時点でわたくしのテンションはだだ下がりでしたので本日は手抜きでございます手抜き。確かこれはクダリが買いだめしていたものでしたがしったこっちゃありません。わたくしからナマエを取り上げた罰でございます。 (――それにしても、楽しそうですね) クダリの部屋の方から時折きゃいきゃいと楽しそうな声が漏れ聞こえてまいります。 本音を言わせて頂けるなら、わたくしも混ざりたい。ナマエとくんずほぐれつきゃっきゃうふふしてみたい。予期せぬアクシデントでラッキースケベとやらもやってみたい。 ですがそのようなこと、言えるはずがございません。 (ナマエの中のわたくしはきっと、ただの口煩い上司なのでしょうね……) ぐずん。啜った鼻が思った以上に大きな音を立てました。 しかしこのラーメンを食べると鼻水が出てしまう現象はどういう原理なのでしょう。 全く関係のないことを考えて現実逃避しつつ、お箸と容器だけ片付けてノロノロと脱衣所へ。 確か明日は、ナマエもクダリも休みだったはず。このために予定を合わせていたのだと今更ながら気がついて、明日も早朝より通常出勤な我が身を呪いました。 ・ ・ ・ 「ひゃー!ナマエ、くすぐったいよぉ!」 「もう!動いたら危ないですってば!はい、次は反対側」 「えぇーもう終わり?もっとやってー!」 「ダメです。やり過ぎも良くないんですから。それにクダリさん、別に掃除しなくても綺麗ですよ」 「やだやだ!あと30分はこうしてたい!」 「――クダリ……?」 わたくし、こんなにもおどろおどろしい声で実の妹を呼んだのは生まれて初めてでございます。 それもそのはず、お風呂から上がってみれば、リビングのソファであろうことかクダリがわたくしのナマエに膝枕をさせていたのですから、これを妬まずにいられましょうか。 しかし悲しいかな、わたくしのその地を這うような声に震え上がるのは当のクダリではなく、やはり罪のないナマエなのです。 「ッ…クダリ、今すぐナマエから離れなさい」 「なんで?ノボリには関係ないでしょ?」 まるでチョロネコのように挑戦的に目を細めたクダリがナマエの膝の上に頭を預けたまま悠々と寝そべってニタリと笑う。 束の間訪れた沈黙の中、わたくしとクダリの間に火花が散りました。 そしてナマエはと言えば、わたくしたちの不穏な空気に飲まれてあわあわと顔を蒼褪めさせています。 クダリめ、ナマエの胃に穴でも開いてしまったらどう責任を取るおつもりですか。 「……お風呂、空いておりますので、早く入ってしまいなさい」 「――じゃあナマエ、一緒に、」 「子供ではないのですから、一人で入りなさい」 返す手で果敢にわたくしの神経を逆撫でするクダリにまた一段と低い声が喉から絞り出されました。 当然です。そのようなはしたないまね、わたくしが見過ごすわけがないでしょう。 クダリのことですからきっと、「ナマエ!背中流したげる!」「えっ、いいですよそん…っひゃん!?や、ど、どこ触ってるんですか!」「えへへ、ナマエのおっぱい可愛い。ほら、プニプニしてる……」「ゃあ、ダメ、だめですクダリさ、…ッ」「ふふ、かぁわい……(ペロッ)」ペロってなんですかあああああ!!!! ああ!!いけません!!!絶対にいけませんわたくしの天使が魔の手に……!!! 「ッッとにかくクダリ!!!明日のおやつを抜きにされたくなければ大人しく一人で……!!」 「の、ノボリさん……!」 「ッ!?な、なんですかナマエ?」 「クダリさんならもう…お風呂行きましたけど……」 「……へ、?」 シンと、居心地の悪い静寂が耳を突きました。 言われて改めてそちらを見れば、そこにクダリの姿はなく、ただ気まずそうに苦笑いするナマエだけ。 (なんと言う失態!!!) 途端に沸騰しそうな熱が顔へと込み上げ、思わず彼女に背を向けてしまいました。 な、なんて恥ずかしい……!!それこれも全てクダリのせいで――ハッ!!そうですクダリの居ない今、このリビングにはナマエとわたくしの二人きりではございませんか……!!! (ど、どうしましょうわたくし何を話せば――いえまずはとりあえずナチュラルに…ナチュラルに隣に座ってそしてあ、あわよくばっ、) 「あ…あの、ノボリさん、」 「は、い!」 不意に背後のナマエに声をかけられ若干声が上擦ってしまいました。 けれど運良くナマエはそのことに気がついていないらしく、躊躇いがちに言葉を繋げていきます。 「えっと…ノボリさんに知らせもせずに、急にお邪魔しちゃってごめんなさい。私、クダリさんのお部屋に戻りますね」 「――!!ちがっ、」 違うのです。 違うのです、ナマエ。 あなたに怒っているわけではないのです。 そんな悲しい顔をさせたいわけではないのです。 「ッ、ここに!いなさい!!」 心の中ではいくらでも素直になれるのに、それを声に出して伝えることはやはりできず、けれど誤解されたままなのも耐えられない。 その葛藤の末、わたくしは自分でも驚くくらい大きな声でそう叫び、立ち上がりかけていたナマエの肩を咄嗟に両手で押さえて再びソファに座らせていました。 きっとみっともないほど赤くなっているであろうわたくしの顔を見て、ナマエの目が丸くなります。 「……ノボリさ、」 「〜〜〜っ、隣、失礼しますよ!」 ナマエが何かを言う前に、先手必勝で隣に腰を降ろしました。 考えてみれば、こうして彼女の隣に座るのは初めてのことです。こんなに、近づいたのも。 同じ双子でありながら、何を憚ることもなくナマエにべたべたできるクダリが心底羨ましいと思いました。 「……先程は、クダリと何を?」 何か会話の糸口をと考えを巡らせ、思い到ったのはやはりあの光景。 ――もちろん、正直なところを申し上げますと下心はございました。…いえ、訂正いたします。下心しかございませんでした。 クダリにするのだったら、わたくしにも同じようにしてほしい。わたくしもナマエの膝枕を堪能したい。 そんな煩悩にまみれた内心をひた隠しつつ落ち着いたトーンで問えば、ナマエはこの場の白々しさを払拭しようとするかのように、殊更に明るい声で答えました。 「あ、えっと…ノボリさんは『耳かき』ってご存知ですか?」 「『耳かき』……?」 「はい。私の生まれた国では、この『耳かき棒』っていうのを使って耳の掃除をするのが一般的なんですよ」 「……ほう」 そう言って、ナマエが差し出した細長い木製の棒にあからさまな興味を示す。 軽く反ったのとは反対側についていた白く柔らかい綿毛のようなものに指先で触れたとき、期待していた天使の一声が降ってきました。 「よかったら、ノボリさんもやってみますか?」 (『計画通り』……!!でございます) 今にもにやけそうな頬を気力で引き締め、目を閉じてナマエの甘い香りを深く深く全身に染みこませるように吸い込む。 はぁ……ナマエ、太股も程よく柔らかい。楽園はここにあったのですね。 そうして至上の歓びを噛み締めていると、「失礼しますね」と囁くように言ったナマエの指先がわたくしの横髪に触れ、それをそっと耳にかけたかと思うと優しく耳朶を摘まれまして、わたくし昇天してしまうかと思いました。 「痛かったら、すぐに言ってください」 「っ、は…はい」 「っふふ、大丈夫。そんなに緊張しなくても平気ですよ」 『優しくしますね』 脳髄を犯すような吐息混じりの声に続き、わたくしの中をナマエ(の持った『耳かき棒』)が探る。 始めは浅く、くすぐるように小刻みに。 他人に内側を触れられる慣れない感覚にわたくしが思わず肩を跳ねさせれば、「動かないで」とたしなめる声が鼓膜を震わせる。 それを懸命に堪え、ナマエの膝の上で握り締めた掌に力を込めました。 「――やっぱり、ノボリさんの中もすごく綺麗……」 「んっ…そ、そのような、こと……!」 「本当です。普段からマメに手入れしてるって感じ」 ええ、ええ。わたくし、いつナマエとそのようなことになっても恥ずかしくないよう、身体はいつだって清潔に保っているつもりですし、全身くまなく念入りに手入れしているのです。 ――ですが、それをナマエに見透かされてしまったようで、たまらなく気恥ずかしい。 震えそうになる呼吸を殺して閉じていた目を開ければ、まるで狙っていたかのようなタイミングで奥まで入ってきたソレが内壁を擦った。 「〜〜ッぁ!」 「あ、ダメです今動かないで!」 「でっ、ですが…っ、ふ……!」 「ノボリさん、奥の方が敏感なんですね……クダリさんと一緒です」
「クダリさんもね、奥の方弄られるのが好きみたいなんですよ。とろけそうな顔でもっともっとっておねだりしてきて……」
ナマエ。ナマエ。 おねがいです、今はクダリの話をしないで。わたくしだけ見てくださいまし。 そう願うのに、やはり言葉にはならず、声を殺して耐え忍ぶことしかできない。 優しくて残酷なわたくしの天使はそんなわたくしのことには気づかず、ゆっくりと続けました。 「……ノボリさん、クダリさんのことあんまり怒らないであげてください」 「ッ…な、ぜ?」 どうして。 なぜ、あなたがクダリを庇うのです。 やはり――やはり二人は…… 「今日のお泊り、私がお願いしたんです――その…お二人の、アルバムを見せてもらいたくて……」 「アル バム……?」 「はい。小さい頃のノボリさん、とっても可愛かったって聞いて、どうしても見たくなっちゃって」 「だからさっきも、クダリさんのお部屋でこっそり見せてもらってたんです」 「――!!!」 そう、だったのですか。 ナマエは、わたくしの写真を見るために…… つまりナマエも――わたくしのことを……!!! 「――はい。終わりです!じゃあ次は反対側を、」 「ッッナマエ!!!」 「ぅきゃあ!??」 ナマエの手が耳朶から離れた瞬間、感極まって膝から飛び起きたわたくしはその勢いのままソファにナマエを押し倒しておりました。 ああ、愛しい。愛しいナマエ!わたくしのナマエ!! 驚きに見開かれたあなたの美しい瞳の中にわたくしがいる。わたくしだけがいる。 この幸福を、言葉にして言い表す術などございません。 ――ですからわたくし、決めました。 「言葉で伝えられないのなら、この身をもってお伝えすれば良いだけのこと……!」 「ぇ、っえ?な、なんのはな、」 「ああわたくしとしたことが!なぜこのような簡単なことに気づかなかったのでしょう!」 愛しいナマエが、わたくしを愛してくださっている。 その事実さえあるならば、もう恐れるものなどございません。 「さぁ、ナマエ……そのように怯えないで。今度はわたくしに身を任せてくださいまし」 「あ、ぁ…っあの、私、なにが、なんだか……!」 「ご心配なさらず。このノボリが、あなたを天国へとお連れ致します。さあ参りましょう、二人の愛の楽園へ!!」 「え、ぁ、や!?や、なん、なんで服脱が…っあ、やだ!そこはダメ!ダメっ、ですって、ばぁ……!」 そんな甘えた声で首を振っても強請られているようにしか見えません。 ねぇ、ナマエ、やはりあなたはわたくしの下で可愛らしくすすり泣く方がお似合いでございます。タチは譲れません。あ、いえ、先程の無自覚天然攻めなナマエも非常に、非常においしゅうございましたが記念すべき二人の初めての夜はわたくしが、 「えいっ!」 ゴイン!! 背後から気の抜けた掛け声が聞こえたのと同時に、それとは到底見合わない鈍痛が後頭部を襲いました。 あまりの衝撃に頭蓋の中の脳みそが揺れ、声も無く沈むわたくしに吐き捨てるようなクダリの白々しい声。 「あれ?ナマエに暴漢が襲いかかってるかと思ったらノボリだった!」 「ちょっ…クダリさんそれフライパン……!!」 「大丈夫大丈夫。ノボリはこれくらいじゃ死なないよ」 (おのれクダリ許すまじ……!) ああ、ですが――このままナマエの胸に顔を埋めて息絶えるのならそれも悪くない、ですね…… 幸せな最期を想像し、ついニヤけてしまったわたくしを2撃目が襲うまであと1秒。 (12.03.29)
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