※クダリさん女体化/百合/ノボリさんはそのまま
『あの、シングルトレインの乗り場を教えてもらえませんか……?』 ギアステーションで、ナマエが僕にそう声をかけてきたのが出会いだった。 いわゆる一目惚れ。ナマエを見た瞬間、今までにないくらい、バトルでも感じたことがないくらい、胸が高鳴った。 だから、無我夢中でお願いした。シングルトレインじゃなくて、ダブルトレインに乗ってほしいって。 そしたらナマエ、びっくりしてたけど、僕の勢いに負けておずおず頷いてくれた。 それから僕が熱烈にアタックして、ナマエと『トモダチ』になって。 ナマエが僕の思ったとおりの可愛い女の子だって知って、ますます止まらなくなった。 僕も女の子だけど、ナマエが大好き。 『トモダチ』としての好きじゃなくて、もっともっと、特別な好き。ずっと一緒だったノボリよりも誰よりも、ナマエが一番好き。 ナマエを独り占めしちゃいたいとか、キスしたいって思う、そういう『好き』。 だけどね、それはナマエには内緒。 だってナマエは、僕に懐いてくれてるけど、僕のこと好きって言ってくれるけど、僕のと同じ『好き』じゃないから。 だからね、内緒。 今のままでもナマエは僕の傍にいてくれるし、抱き締めたりほっぺにキスすることはできる。それだけで今は満足。 ――それにね、今日は大好きなナマエが、僕のお家にお泊りに来てくれたんだから! 「ナマエ!遠慮しないで上がって!」 「は、はい!お邪魔します……!」 可愛い。可愛いナマエ。緊張してちょっとギクシャクしちゃってる。 可愛い。嬉しい。大好きなナマエと、今夜はずっと一緒! 僕ずっとこの日を楽しみにしてた!スケジュール帳にハートマークつけて、指折り数えてた! 嬉しくて嬉しくて、自分でもちょっとテンション高すぎなのわかってるけど、どうしようもできない! ソファの端に遠慮がちにちょこんて座ったナマエのためにあったかいココアをいれてあげる。 えへへ!今日のためにお揃いのマグカップ用意したの!嬉しい! 「あっ、ありがとうございます……!」 「熱いから気をつけてね!それと、そんなに緊張しなくても大丈夫!」 「っ、はい…すみません……」 僕が言うと恥ずかしそうに顔を伏せて、両手で持ったマグカップの中のココアに息を吹きかけて冷まそうとする。 その、ふーってするときの、ちょっとだけ突き出された唇に、思わず目が行った。 ナマエは何もかもが僕よりちっちゃくて、何もかもが可愛い。 ぽってりしたちっちゃい唇が寄せられて、そっとカップの淵に押しつけられたそれが離れたときには濡れてツヤツヤ光りだす。 瞬間、心臓が痛いくらいに飛び跳ねた。 「――クダリさん……?」 「!!な、なにっ?」 「え、いえ…ぼうっとしてたみたいだから、もしかして具合が悪いんじゃ、」 「ううん!そんなことない!!全然元気!すっごい元気!!」 危ない危ない! ちゅーしたいなぁって思ってたら見すぎちゃってたみたい。ナマエ、変に思ったかなぁ。 まだ胸の奥で心臓がドキドキしてるのを顔に出さないようにして、ナマエの隣に腰を降ろすと、こっちを見てるナマエと目が合った(う、あ、上目遣いとか……!) 「なんか…ちょっと変な感じです」 「うえっ!?へ、変……!!?」 ど、どどどどうしようもしかしてちゅーしたいって思ってたのばれた!? さっきとは別の理由で心臓が暴れまわって、あ、う、ど、どうしよう!!どうしようナマエ、気持ち悪いって…!僕のこと気持ち悪いって思っちゃ―― 「クダリさんと、今夜はもうずっと一緒なんだなぁって思うとなんか……ふわふわします」 「ッ、!!!」 ふ、『ふわふわ』って……! ふわふわってナマエ、それどういう意味なの!? そんなっ、そんな照れくさそうにはにかんで言われちゃったら僕、期待しちゃう。 ナマエももしかして、今日のこと楽しみにしてくれてたんじゃないかって――僕のこと、少しでも特別に想ってくれてるんじゃないかって、期待しちゃうよ。 もう、もう……!! 「ナマエのバカッ!大好き!!」 「うひゃっ!?ちょっ、や、クダリさん危ないですよ!」 いきなり飛びついた僕に小さな悲鳴を上げながら、それでもナマエの声は楽しそうに笑ってる。 マグカップをテーブルに置いた音がして、ナマエのちっちゃい手が僕の背中に回ったのを感じて、余計に堪らなくなった。 ナマエ、ナマエ、ナマエ、ナマエ。 心の中で何回呼んでも呼び足りない。 どれだけぎゅっと抱き締めても、頬を摺り寄せても、全然足りない。 もっともっと、ナマエにくっつきたい。 もういっそナマエと一つになっちゃいたい。 恋人になって、結婚して、夫婦になりたい。ナマエに僕の赤ちゃん産んでもらいたい。 家族になりたい。 だけど、それは――それだけは絶対、叶わないね。 (ナマエ、好き……大好き、) 大好きで、大好きで、愛おしくて――だけどね、それと同じくらいに切ないよ。 ・ ・ ・ 「ク、クダリさんあのっ、ほんとに……!」 「もう!ここまで来て怖気づかないの!ほら、脱がないなら僕が脱がしちゃうよ!」 「!!ゃ、やー!!だめっ!ちょっ、まっ…あは!やだ!どこ触って……!」 「えへへー、ナマエやわらかーい!」 渋るナマエを強引にお風呂場に引っ張って、なんと今から一緒にお風呂はいっちゃう! だってだって!お泊りの醍醐味っていったらやっぱりこれでしょ! 服を脱がすふりをして(――だってほんとに脱がしちゃったらきっと僕、我慢できない)ナマエの身体をこしょこしょくすぐって、ナマエがへたりこんだところで先にバスルームに入った。 「――失礼、します……っ」 それから、湯船の温度を確かめてからバスタブの中で待ってると、白い湯気の充満したバスルームにナマエの小さな声が響いて思わずゾクリ。 ドキドキしながらふりむけば、恥ずかしそうなナマエと目が合う。 「………なんでタオル」 「えっ、いやだって……恥ずかしい」 「むー!」 ナマエは身体にタオルを巻いて完全防備状態だった。 つまんない。せっかくついにナマエの裸見れると思って、わくわくドキドキしてたのに!もてあそばれた気分! ――だから、掛け湯を終えたナマエがそうっとバスタブに入ってきて「ふぅ」と息をついた瞬間、仕返ししてやった。 「がおー!!」 「きゃあああ!!?やっ!や、クダリさん…ッやだ!」 「ダーメ!タオルなんていらないでしょ!ほらほら、暴れないで!」 「やー!!ほ、ホントにダメですってばっ!ゃ、やぁっ!」 パシャパシャ跳ねるお湯の音と、ナマエの可愛い悲鳴。 ダメ。わかってるのに、止まれない。興奮しちゃう。 逃げ出そうとするナマエを捕まえて抱き込んで、巻いてたタオルを引っぺがすと、透明なお湯の中でナマエの白い胸がふゆんて柔らかく揺れたのが見えて、思わず喉が鳴った。 「ナマエ、可愛い……すっごく可愛いね」 「う、うぅ〜〜っ、どうせクダリさんに比べたら子供みたいなサイズですよ……っ!」 ――なんだ、そんなこと気にしてたの? 僕の言葉が意地悪だと思ったのか、タオルを取られて腕の中で大人しくなったナマエが拗ねた顔をする。 だけどそんな顔もやっぱり可愛くて、胸の中が熱くなった。 俯いたことで晒されたしっとり湿った項に今すぐキスしちゃいたい。 ううん、いっそ噛みついてみたい。だっておいしそうなんだもん。 ねぇ、このまま食べちゃいたいよ、ナマエ。 「――えいっ!」 「ひ、わあ!」 気づかれないように、ペロリと唇を舐めて、湯船の中で思い切って可愛い胸を掴んでみた。 あ、やわらかい。ぷにぷにだぁ。 「や!?も、クダリさんいい加減に……っ!」 「えぇ?でもほら、揉むとおっきくなるって言うし?」 「っっ……ふ、」 僕は今のままでも十分可愛いと思うし同じ女の子なのにバカみたいに興奮しちゃうけど、ナマエは良く思ってないみたいだから、そこにつけこんでそれらしいことを言ってみれば、予想以上の効果を発揮したらしくナマエは黙って大人しくなった。 静かになったバスルームに、時折ナマエの耐えるような、鼻にかかった甘い声が反響する。 どうしよう。 なんかこれ、すごくやらしい気分に、なっちゃう。 どうしよう。どうしよう。 僕まで息が、苦しくなる。止められないよ、これ。 ねぇ、ナマエ、どうして乳首立ってるの? 今、こっそり摺り寄せた膝の向こうの、脚の間はどうなってるの? 感じちゃってる、の?僕に?女の子の僕にも、感じてくれるの? 僕のこと――好き、なの? ねぇ、ナマエ、黙らないで。じゃないと僕、 「ク、ダリ…さん……っ」 「 ッ、え、なにっ?」 やばい。夢中になりすぎてちょっと反応遅れた。 慌てて返事をするとナマエが首を捻って僕を振り向いて、何か言いたげな顔をする。 その、泣き出しそうに潤んだ瞳の理由が気になって、僕は咄嗟に、名残惜しみながらもナマエの胸から手を離して小さな身体をぎゅっと抱きしめた。 「ぁ、あの……その、やっぱり、おっきいほうが、いい、かな……?」 「へ?」 「だっ……だから、胸……!」 恥ずかしかったのか、ふいと僕から目を逸らしてまた俯いたナマエが膝を抱える。 もう、どうしてそんな、一々可愛いの? そんなこと気にしなくていいのに。 僕は、今のままのナマエが誰よりも誰よりも好きなのに。 「――まぁ、一般的にはおっきいほうが好まれるみたいだけど……で、でもね、僕は…!」 「ノボリさん、も?」 「 え、」 いま、なに? 何て言ったの、ナマエ。 「ノボリさんも、胸のおっきい女の子の方が、好き、かな……」 なに 言ってるの。 ねぇ ねぇ、ナマエ。 「――な んで、そんなこと、きくの ?」 僕の腕の中にすっぽり収まってしまう小さなナマエが、ピクリと肩を跳ねさせて、いつの間にか、髪から覗く耳まで、赤くて。 気づけば僕は乱暴にナマエの肩を掴んで、無理やりこっちを振り向かせていた。 「ックダリさ、」 「 ねぇ、ナマエ 」 熱い。 どうしよう、すごく熱いんだ。 頭の中が真っ白になりそう。喉が渇いて死んじゃいそう。 だから、助けて、ナマエ。 お願いだから、そんな目で僕を見ないで。 違うって言って。 「ノボリのこと、好きなの?」 「 」 震えた唇が喘いだ瞬間、僕はそれを塞ぐように自分の唇を押しつけて目を閉じた。
「――さんっ……!クダリさん!!」 「ッッ――!!!」 ナマエの声に名前を呼ばれて、ハッと目を覚ませば左胸の奥がドクドクと重く脈打っているのを感じた。 何これ。すっごく嫌な感じ。 「クダリさん、大丈夫ですか?大分うなされてましたけど……」 「………ナマエ、?」 「はい?」 ナマエ……ナマエ、だ。 薄暗い部屋の中で、ナマエが心配そうに僕の顔を覗きこんでるのがわかる。 彼女を安心させようと咄嗟に身体を起こせば背中がヒヤリとした。うわ、寝汗ひどい。 (ああ、そっか――お風呂はいってる夢、見たから、) 「!!」 そこまで思い出して、また心臓が痛いくらい跳ねた。 「クダリさん?」 「………ナマエ」 そんな僕を、おろおろ心配そうに見つめるナマエに思わず手を伸ばして、華奢な腕をぎゅっと掴む。 力加減が上手くできなくて、きっと痛いだろうにナマエは文句一つ言わず、僕の手に小さな掌をそっと重ねた。 「恐い夢でも、見ましたか?」 「――ッ、」 恐い、夢。 そう、恐い、嫌な夢を見たんだ。 僕が、女の子になっちゃってて、ナマエに片思いしてて、それで、ナマエは―― ナマエ は 「……ね、ナマエ」 「はい?」 「僕のこと、好き……?」 「ッ!な…っ!」 赤くなって口ごもるナマエだけど、縋るような僕の視線に耐えかねたのか、小さくため息をつく。 微かに震えた手がブカブカのワイシャツの合わせ目をかき合せて、鬱血まみれの素肌をいじらしく隠した。 「すっ…きじゃ、ないなら……こんなこと、しません……っ!」 「――ノボリよりも?」 「はぁ!?」 「ねぇ、お願い、ちゃんと言って」 さすがにちょっと怒ってるナマエの、掴んでた腕を引っ張って、腕の中にぎゅっと抱き寄せて、顎をすくう。 ごめんね。わかってるよ、ちゃんと。 ほんとはわかってるんだ。だけど、お願い。 あの恐い夢を、忘れるほどの『好き』をちょうだい。 「ッ、 !」 震えた唇が喘いだ瞬間、夢の中のようにナマエの答えを飲み込んで、うっとりと目を閉じた。 (12.03.03)
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