(「げに恐ろしきは」の続き/下ネタ有) 「ほ、ほんとにちょっとだけ、ですからね…っ!」 「えぇ」 「っっ……絶対、絶対写真撮っちゃダメですよ?!」 「はい。約束いたします」 ああ、可愛い。可愛いナマエ様。 既に半泣きでわたくしに強く念を押し、『どうしてこんなことに』と小さく唸って寝室のドアを閉める。 パタンと閉じられたドアを挟んだ向こう側で今まさに涙目のナマエ様がわたくしのためにお召し物を脱いでいるのかと思うだけで背筋がゾクゾクして、緩む頬を押さえ切れませんでした。 (ナマエ様…わたくし、悪い恋人でございます) わたくしが『どうしても』と言葉を重ねて懇願すれば、どんなにしぶっても最後には頷いてくださること、知っております。 わたくしがナマエ様に甘いように――いえ、もしかするとそれ以上に、あなたはわたくしに甘い。 それを全て理解した上でやっているのですから、わたくしは狡い男なのでしょう。 ――とは言っても、自覚があるからと言って善処するつもりなどサラサラございませんが。 「――ナマエ様、よろしいですか?」 逸る心臓を押さえきれず、額をドアに預けながら中にいる彼女に声をかける。 そうすると、僅かに上擦った震えた声に『は、い』とか細く返されて、思わず全身がブルリと震えました。 「失礼いたします」 ドアノブを捻って、灯りのついていない薄暗い室内へ一歩。 余程恥ずかしいのか、ナマエ様は所在無さげに立たれたままこちらに背を向けていらっしゃいました。 その足元は、薄闇の中で浮かび上がるような白い素肌が晒されていて、クラリと眩暈を覚えるほど。 「あっ、あの…ノボリさんやっぱり私……!」 「――こちらを向いて、よく見せてくださいまし」 そっと、できるかぎり優しく肩に触れると、それでもナマエ様の華奢な身体が飛び跳ねる。 そんな可愛らしい反応をしないでくださいまし。 わたくし、もう――もう、止められません。 「っ、ひゃ!」 「おや。まだ下着が残っているではありませんか」 「〜〜〜っだ、って…!」 少々強引に振り向かせたナマエ様は、わたくしのコートの下にまだ下着を身につけたままの姿でございました。 元来このコートは前を閉めるデザインとは異なりますので、正直に申し上げますと、素肌を隠すため必死にコートをかき合わせようとするそのお姿だけで十分に扇情的なわけですが――素直に『裸彼コート』をしてくださらなかったナマエ様に、少しだけ意趣返しをしてさしあげたくなったのも確かで(まぁ、こうなるであろうことも予想しておりましたが) 「……そうですか。わたくしのために、下着を脱がせる楽しみを残しておいてくださったのですね!」 「?!っちが、」 「ブラボー!さすがわたくしのナマエ様でございます!」 「では、さっそく!」 『まもる』体勢に入って満足に身動きのとれないナマエ様を抱き上げて、やわらかなベッドの上へ。 そうなると、いよいよ切迫した危険を感じ取ったナマエ様が慌ててわたくしの下から逃げ出そうと身を捩りますが、時既に遅しと言いますか。 大変申し訳ございませんが、わたくしもう、逃がして差し上げるつもりはないのです(えぇ、これっぽっちも!) 「ああ、そうですね。せっかくですのでネクタイもしてみましょうか!」 「!!!ゃ、ちょっ…ノボリさっ」 「スーパーブラボー!!まさに眼福でございます!」 「使い方おかしくないですか?!」 襟から引き抜いたネクタイを使ってナマエ様の腕を一纏めにしてしまえば、もうこちらのものでございます。 ベッドの上でわたくしに圧し掛かられ、わたくしのコートを羽織った半裸状態で腕を拘束され、思うように身を捩ることさえ叶わなくなったことで一層涙目になるナマエ様の可愛らしさといったら犯罪レベルと称しても過言ではないでしょう。高鳴る胸で些か呼吸が乱れるのも仕方がないことでございます。 「ハァッ…ナマエ様、わたくし興奮で胸が苦しくなってまいりました」 「だったら一回落ちつきましょう?!とりあえずどいてください!」 「それはできません」 「即答しないでくださいよぉっ!」 「――ああ、そうでした!こうしてはいられません!」 この極上のお姿を、しっかりと記録しなければ。 再び取り出したカメラを構えてナマエ様に向ける。 すると、液晶画面に映るナマエ様の顔がハッと引き攣り蒼褪めていくのがわかりました。 「ッノボリさん!写真は撮らないって…!」 「ご安心くださいまし。このカメラ、動画も撮れますので」 「?!なっ、尚更ダメです!」 「そう申されましても、わたくしがお約束しましたのは『写真は撮らない』ということのみでございます」 「――っっ!!!」 ぶわり。ナマエ様の大きな瞳が、込み上げてきた零れそうなほどの涙に煌く。 ああ!ああ!最高でございます!!そのお顔だけで、下半身に熱が溜まるのを抑え切れません。 鎮められるのはもちろん、目の前で儚げに震える愛しいこのお方だけ。 「――恐がらなくとも、大丈夫ですよ。ナマエ様」 いつものように、ただ気持ちよくなるだけ。 小さな耳に優しく囁いて、頬に口付けて、あたたかな素肌に手を伸ばす。 途端に、少し過剰なまでにビクリと身を跳ねさせ、桜色の唇をきゅっとひき結ぶ可愛いナマエ様。 ドクドクとわたくしの胸の内で脈打つ心臓さえもが、『あなたが愛しい』と叫ぶのです。 ですから、どうか、 「『ハメ撮り』、してみましょう?」 あなたの悪い恋人を、ゆるしてくださいまし。
悪魔の誘惑
「暗視補正高感度レンズ、さすがでございます!」 「(もう絶対…絶対絶対絶っっ対、ノボリさんのお願いは聞かない…!)」 (11.12.09)
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