短編。 | ナノ


◎ 1/6


「おい触んじゃねーよ、細菌」

え…?


それは突然だった。
いつもと同じように登校して、クラスの友達に挨拶をしたが返事はなかった。聞こえなかったのかと思って肩に手をおいたら、冷めた目でそう言われた。
その時一番仲の良かった幼なじみにも拒絶されて、結局その日僕と口を利いてくれた人が発するのは「細菌」だけだった。

それから僕は小学校卒業までの1年間、細菌となった。




「ひーなた、帰ろ?」
「……教室まで来なくていいってば」

僕とはクラスの違う幼なじみは放課後、わざわざ僕を迎えに来る。ついでに言えば昼休みも。

4年前、クラスのみんなに倣って僕を避けた幼なじみだったが、『幼なじみ』という縁はそう簡単に切れなかった。
いじめが始まったその日の放課後、蓮は僕の家を訪ねてきて玄関口で眉を下げた。ごめんね、と。しかしそれに続いた言葉は「学校では一緒にいられない」だった。
なんで、とは聞かなくても想像がついたし聞かなかった。分かった、とだけ返して僕は蓮を外に出して扉を閉めた。
「分かった」なんて見栄を張って言ってみたが、やっぱり悲しくて悔しくて惨めで、泣いた。

翌日から予想通りのいじめが始まっていて。ターゲットはもちろん自分で。
ただ予想外だったのは蓮がその日から毎日、放課後に僕の家を訪ねて部屋に上がっている事だった。
元々隣家な為家族ぐるみで仲が良かったのが災いして、母親が有無を言わさず蓮を部屋に上げるのだ。馬鹿みたいに綺麗な蓮は僕の母親のお気に入りだった。

最初こそ最悪な雰囲気が流れていたが数日も経てば蓮の持ってきたゲームをしたり、いざこざがある前のような関係に戻っていた。まあ学校での関係は相変わらずだったけど、さりげなく庇ってくれたり、僕の蓮に対する好感度は徐々に回復していった。

転機は中学受験だった。
言い出したのは蓮だ。
僕自身も今のクラスのメンバーが多くいる中学に通いたいとは思えなかった為、親にも相談して蓮と同じ中学を受験した。

もちろん中学に僕を知っているのは蓮しかいなかった。
いじめられる事もなくなった。
蓮とも学校で話せるようになった。
蓮以外の友達もできた。
嬉しかった。

でもそれも最初だけで2年生後半にもなってくると、背が伸びて声変わりもきて、女の子っぽい綺麗さだった蓮も男らしさが出てきた。女には間違えられないけど、男臭くない。綺麗という表現は小学校と変わらずしっくりくる。
そんな蓮と行動を共にしている僕をやっかむ声が聞こえ始めて、小学校の時の事が思い起こされた。

流石に怖くなって蓮に言えば「大丈夫」と一言。
自分勝手かもしれないが、正直僕は蓮一人の友達を持っていじめられるより、他に友達がいれば蓮とは縁を切ってでもいじめられたくなかった。
裏切りに近かったかもしれないが、僕は蓮を少しずつ避けた。
それがいけなかったのか。
避ける僕を責めた蓮は今まで以上にべったりしてきて、他の友達はとうとういなくなってしまった。

中学からの持ち上がりで高校に進学するシステムな為、顔見知りがほとんどのなか、僕達は高校生になり、今に至る。



 
[/10^-24]