短編。 | ナノ


◎ 2/5


「でさ、どうにもなんないしさ、優輝にそれとなく言ってくれねぇ?」
「は?」

俺は、オレンジジュース片手に戻ってきた高橋の顔色を窺うように言うが、当の高橋は意味がわからないというような顔。

「『高田の事気にしすぎ』とか『束縛強すぎじゃない?』とか言って注意してほしいんだけど」
「は!?そんな事したら殺されるんじゃないの!?『お前なに口出ししてきてんの?龍ちゃんに気があるの?』的な!」
「大丈夫大丈夫!俺と3人でいる時に高橋が優輝に注意して、でも優輝が傷つかないように俺が優輝をフォローするから優輝の機嫌はそんな悪くならないし『ちょっと気をつけようかな…』的な改心をする感じな?」

意味がわからないと真顔で呟く高橋だが、これ以上の案はないと思うのだ。
手を合わせて頼み込めば優しい高橋は渋々だが了承してくれた。
ファミレスでの代金は俺が持ち、優輝の授業が終わらないうちに俺達は大学へ戻った。


「あ、龍ちゃん〜」
「おー」

とりあえず高橋と別れた俺が食堂で優輝を待っていると、トートバッグを肩にかけた優輝が、俺を見つけたらしく此方に近寄ってくる。
俺はというと、さもずっと1人で携帯を触っていたというような雰囲気を醸し出しながら優輝に笑いかけた。

「おつかれー何か食う?」
「あ、じゃー…ラーメン食べよー龍ちゃんは?」
「んー…C定食にしよっかな」
「じゃあ注文してくる!」

ちょうどお昼時で、コーラしか飲んでいなかった俺も空腹で、気が利く優輝は俺の分も一緒に注文しに行ってくれる。

「すごく健気なのに…」
「健気で可愛くて好きだけど息苦しーんだよ。うまくやれよ?」

優輝がいなくなったのを見計らった様に高橋が向かいの席について、そんな事を呟いた。
俺の問い掛けに返事はなかった。
とりあえず何か話さなければと思い俺はサークルの話を振り、その場を繋ぐ。



「龍ちゃん?」
「お、さんきゅー」

ぎこちなく2人で盛り上がってるところで優輝が番号札を持って戻ってきた。

「高橋?どうしたの?龍ちゃんに何か用?」
「用っていうか…見えたから…?」
「ふーん…あ、龍ちゃん!次の授業終わったら学校終わりでしょ?どっか行こ?」

高橋に気を向けるものの、それも一瞬で、優輝は俺の隣の席に座って楽しそうに話す。
まあサークルの話をしていたといっても、優輝からしてみればこの場合は高橋が割り込んできたという認識なのだろう。

「あ、だから今日はサークルだって!」

そんな感じで蚊帳の外になった高橋は優輝の言葉を聞いて、慌てたように言う。
一瞬にして優輝の視線が高橋に突きささった。

「………」
「お前なー…高田が好きなのはわかったけど、もう少し高田の好きにさせてやれよ」

ぶすっとした不機嫌そうな優輝を前に、高橋は宥めるように言う。

演技がうまい。
俺はそんな事を思いながら、ふん、とそっぽを向いてしまった優輝の頭を撫でる。

「大丈夫だよ、俺は優輝の気持ちわかってるし。…でも友達と話すくらいは許してくれねぇ?誰と話してても優輝だけが特別だから」
「……うん…じゃあ、ちょっとだけなら…」

あやすように言ってやれば渋々ながらも優輝は小さくそう呟く。
ありがとう、と微笑んだところで優輝の持つ番号札の番号が呼ばれる。席を立った優輝と一緒に俺もC定食を取りに席を立った。

予想以上にうまくいった事に喜びながら日替り定食にすれば良かった、なんて呑気な事を思った。



 
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