Mum's the word...! | ナノ


「Trick or Treat」

「Happy Helloween」



仁王は本日何度目かの退屈そうな表情をした。
僕が差し出したキャンディーを宙に放って受け止めて、また放って。



「つまらんぜよ」

「はいはい」



やがてそれさえ飽きてしまったらしく、乱雑に封を切って口内へと投げ込む。
無関心に返事をした僕はと言うと、ペラペラと雑誌のページをめくっている。

補足。
別に僕が冷たいなんてことはない。



「Trick or Treat」

「あのねぇ」



しつこい!
律儀に数えてる僕も僕だとおもうけど、もう、



「これで22回目だよ?!わかってるの?」

「ケロケロっ」

「ケロケロじゃないの!意味わからないし!」

「プピーナ」

「………。」



僕は額に手を当てて脱力。
そんな僕に何ら悪びれた様子もなく、仁王はキャンディーをバリバリやっていた。

さっきからこうやって、すぐに与えたお菓子を消費する。



「Trick or Treat」

「Happy Halloween」



もうやだ。めんどくさい。
と、そう思ってるのにどうして甘やかしちゃうんだろう。

僕は仕方ないように定型文を唱えてキャンディーをもう一粒差し出してしまう。
仁王が喜ばないのは、わかってる。



「つまらんぜよ」

「はいはい」



仁王が本当に欲しがってるもの?
とっくにわかってる。
計23回になったやりとり、無視したり反論したりしたのも含めて総計28回のかなり序盤から気付いてた。

だからこそ、やっぱり、そっちから仕掛けて欲しくなっちゃう。



「あとどれぐらい残ってるん?」

「けっこう」

「もう飽きたぜよ。」



袋に残ったキャンディーを見せると、仁王はあからさまにウンザリした顔をする。
僕も飽きたけどね。この会話に。



「虫歯になるナリ…」

「なっちゃえ」

「ほんまに冷いのぉ…」



悪かったね!でも悪いのは君の方だろ。
そう言ってやりたいのをグッと堪える。

僕ってそんなに辛抱強い方じゃないから。やきもきしちゃう。
それからちょっぴり、ドキドキしてる。



「油断も隙も、ありゃせんぜよ。」

「まぁね。」



平然と答える。
油断も隙もないように、僕は細心の注意を払って素っ気ない風に演出しているのだ。

だって悪戯待ちなんて知れたら恥ずかしい。



「そんなにイヤなんか?」

「なにが?」

「…なんでもなか。」



君に悪戯されるのが、でしょ?
本当はすっごく魅力的だと思ってるよ?いつだって。

でも、僕としてはお菓子の代替品なんて真っ平ごめん。
だからお菓子の代わりじゃなくて、仁王が僕自身を求めてくるのを待ちぼうけてる。



「Trick or Treat」

「Happy Halloween」



もう飽きた。
そろそろ次の段階に進みたいよ。



「埒が明かんぜよ」



そんな僕の思いがやっと通じたらしい。
或いは共鳴。



「Trick and Treat」



Happy Halloween。
キャンディーごと指を搦め捕られて、キスされる。

すっごく甘いキス。
糖度の分だけ僕のガマンとワガママが溶け込んだキスだと思った。

待ちに待った末のキスだったせいか、離れがたくて目一杯唾液を絡めてキスをした。
舌で舌を舐め合った。満足いくまで舐め合った。



「俺の負けぜよ。」



唾液で繋がったまま仁王が笑う。
なんだ、悪戯待ちだったのバレてたんだ。なんて僕はちょっぴり気が抜けてしまった。
でもそれならもう白状しても同じこと。



「僕も危なかったけどね。はい。」



壮絶な我慢大会だった。
そんな感想を頭の中で述べて、仁王の手にキャンディーを握らせる。



「なん?」

「Trick and Treat分のキャンディー。」

「もう結構…」



そりゃそうだ。
仁王のキス、甘くて吐きそうだった。

もうキャンディーは要らないよね。うん。わかってる。
それなら妖しく笑って、非定型文を唱えてね?



「Trick or Trick」

「Happy Halloween」



僕が惚れたのは仁王雅治だもの。
ハロウィンだって何だって、屁理屈まみれが良いに決まってる―――…!



END...