オレこと菊丸英二は、トレードマークの絆創膏が付いた頬をぷっくりと膨らせた。 だってイライラするじゃん。
じっと睨み付ける先はただ一点。 クラスメイトで親友で、実は誰にもナイショで恋人同士だったりしちゃう不二周助。
でも違う。 ムカツクのって別に不二のことじゃないからな?
と、思ってる間にもまた来た!
「よぉ不二!Trick or Treat!!!」
ちくしょ。誰だっけコイツ。 えーっと、確か。サッカー部の部長の宮鍋とかいうヤツ!!!
実はさっきから ずぅっとこの調子。 女子も男子も関係なく、オレのハニーにお決まりのセリフを吐きやがる! あ、女子はオレのとこに来る子も多いけど。
その度ごとにオレはそわそわ。
「はい。Happy Halloween」
不二はにっこり笑って宮鍋にお菓子を差し出す。 そんな対応に今度はホッと一安心。
だってこんな男に不二がイタズラされるなんてたまんない!許せない!
宮鍋の方もきっとそういう目論みだったのだろう。 ちょっと不満げな顔が愉快だ。ザマミロ!
肩を落として撤退していく宮鍋の後姿にアッカンベー。
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でも、オレをイライラさせる原因はそれだけじゃない。 実はもう1パターン。
「不二くん、」
「あぁ、なんだい?」
今度のコイツは誰だっけ? えーっと、えーっと、確か。写真部の佐波ってヤツ。
写真仲間に話しかけられて不二はちょっぴり嬉しそう。悔しいにゃ…
「ハロウィンなんだから言うことあるでしょ?」
「えっと、Trick or Treat?」
「うん、Happy Halloween!」
「ありがとう」
あー!なんだよコイツ!!! オレの不二に餌付けとはいい度胸!ちょっと表に、
「はい、菊丸くんもHappy Halloween。」
「…あ、ありがと」
なんだ意外と良い奴じゃん。 手を振る佐波をちょっと感心しながら見送った。
でもやっぱり抜かりない。
「英二も貰ったんだ。よかったね」
にこにこ笑う不二に溜め息を吐く。まったくお鈍さんで困っちゃう。
だって俺には普通のお菓子なのに、不二のはカラムーチョなんだもん。 しっかりばっちり狙ってんじゃん。佐波のヤツ。
「なぁー…不二ぃ」
「ん、なぁに?英二。」
「なんでもにゃい。」
実は佐波の前にも似たようなヤツがいて、その時貰ったハバネロを齧る不二。 あー、ハロウィンってこんなにヤキモキするイベントだったっけ?
「英二さ、心配しなくても良いよ?」
「へ?」
「ねぇ。学校が終わったら英二の家に行っても良い?」
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あー、ハロウィンって良いな。
不二の言葉ひとつで、コロッとこんな風になっちゃうオレってなんて単純なんだろう。 けどやっぱりイベントは楽しんでなんぼだよな。うん。
『まだ考え中なんだけど、』
『うん?』
『お菓子として僕を差し出すか、あえて渡さずに英二にイタズラされるか。』
『…っ』
『放課後までに決めておくね。』
END... |
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