Mum's the word...! | ナノ


「英二の?」

「うん。」



僕は向かい合って座る大石の目をジッとみてみた。

英二は観月に怒ったけど、
本当、キレイなタマゴ型のフォルムだな。なんて。

いや、違う違う。
今日はそうじゃないんだった!

僕はひとりフルフルと頭を左右に振ってタマゴ大石を脳みそから追放した。

よし、気を取り直して、



「それで、どうしよう。」

「英二の誕生日プレゼント、ねぇ―――…」





◇◆◇◆◇





そんなわけで、



「ふぅじっ♪」



大石御奉行指導の下、プレゼントも選び終えて無事に迎えた11月28日。
今日は英二の、僕の大切な恋人の、



「ハッピーバースデー、英二」

「ありがと!」



言うなり満面笑顔の英二は
僕の首に腕を巻き付けてきて、それで力いっぱいギュウギュウと、



「え、じ…ぐるじい」

「ごっごめんっ!」



慌てて手を離してあたふたする英二に僕は酸欠気味なままで「大丈夫」と笑ってみせる。

そりゃ確かに苦しいんだけど、それが愛故なんて思えてきたらちょっぴり、
ううん。もうほとんど大部分の面積を埋め尽くしてしまうくらいの喜びになっちゃったりして。

自分でもヘンなの。って思うんだけどやっぱり嬉しいんだ。

別に僕が潜在的マゾとかいうワケではなくて、多分こんなになるのは英二にだけ。



「英二のバカ」

「だからごめんってば〜」

「首絞めたことじゃないからね」



僕をそんなにまでさせるのがほんの寸分憎らしくなったから、英二に解らないのを知っていて意地悪してみた。
うん。やっぱり僕は天性のサド。

焦りまくる英二にクスッって笑ったらムッってされた。



「もう不二!からかわないでよねっ!!!」

「ごめんごめん」



今日はせっかく英二の誕生日だしね。
からかうのはいい加減これくらいにしておこう。



「英二、誕生日プレゼントあるから。機嫌直して?」

「マジ?!」

「うん。マジ。」



コロッて機嫌良くしちゃうんだから。
本当に調子良いんだから。

けどまあ、英二が笑ってくれたらそれで良いかなって僕も大概なんだけど。

そう思いながら僕はカバンの中を探る。

その間中、ずっとワクワクキラキラした視線が刺さってるのを感じて僕は苦笑いした。
英二がなに想像してるかは知らないけどさ、



「大したものじゃないからね?」



ラッピング仕様の東急ハンズのみどりの袋を英二に手渡して言った。



「開けても良いっ?」

「どうぞ。」



僕はリボンを解く英二の指先をただジッと見つめていた。





◇◆◇◆◇





「英二の誕生日プレゼント、ねぇ」

「うん」



結局タマゴ大石を追放しきれなかった僕はその残像に半笑いしそうになりながら頷いた。
ちなみにそのタマゴ大石は困り顔である。

いい加減僕も真面目に考えよう。



「歯ブラシとか?」

「えー…確かに歯磨き好きなのはわかってるけどさ」



大石の提案に首を捻る。
それって貰って嬉しいかな?

案外すぐにボロボロになっちゃうものだし。



「うーん…」

「うーん…」



タマゴと、いやいやいや。
大石と仲良く唸って天を仰いで、



「あっ、良いこと思い付いたかも」





◇◆◇◆◇





「はみがき粉じゃん!」



結局僕が選んだ誕生日プレゼントは歯ブラシから遠からずなはみがき粉だった。

けど薬局とかに売ってるありふれたのじゃなくて、



「すっごいコレ!何種類あんの?!」

「ふふっ、いっぱい。かな?」



あの物凄く色んな味があるちっちゃいチューブのやつ。
中にはちょっと、えげつなさそうな味とか心配な味もあるけど…

あるんだけど、



「僕と毎日一緒に試していこ?」

「…っ…!」

「ね?」

「ふじぃ〜…!」



喜びをわかりやすく体現してくれた英二のおかげで僕はまた首を絞められていた。



ねぇ、英二。
毎日色んな味と一緒にふたりで歩んでいこうね?



その


健やかなるときも、病めるときも、

喜びのときも、悲しみのときも、

富めるときも、貧しいときも、



それから、みがき粉が

美味しいときも、不味いときも、




僕は英二を愛すことを誓うから。



「不二大好き!」

「ありがと、でも…」



でもそろそろ、



「ぐるじい…」

「っ!?ごめんっ!!!」



HappyBirthday to Kikumaru.