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『サエ、誕生日おめでとう。』
「ありがとう。」
『ねぇサエ…』
「今年は平日だ。仕方ないよ、不二。」
『そうだね。』
繰り返される『ごめんね』が聞きたくなくて、佐伯は笑って不二の言葉を遮った。
「大丈夫。あと何年か待てば一緒にケーキ、食べられる日が来るよ。」
『ふふっ、そうかもね』
「“かも”じゃないだろ?だって俺たちずっと…」
佐伯の言葉を、今度は不二が遮って笑う。
『ずっと一緒だろ?わかってる』
「3年後の俺の誕生日まで、ずっと俺の恋人でいてくれるだろ?」
『うん、もちろん。』
「その先も、ずっと…?」
『うん、もちろん。』
君ってほんと、無駄に情熱的だよね。 電話口で笑われて、佐伯は襟足の黒髪を弄った。
「無駄って…。ヒドイなぁ、不二は。」
『でもそんなサエが好きなんだよ。僕は。』
「そっか。」
『そ。』
「ありがとう。」
恋人になって迎えた2度目の佐伯の誕生日。 去年よりは少し余裕ができたかな?なんて内心で少し苦笑いした。
重苦しいあの雰囲気にならないのはきっとそういうこと。 そう思う程に電話口の不二は明るかった。
(寂しいのは俺だけ、か…)
まぁ、東京千葉間。誕生日でなくとも毎日会えないのだ。 慣れるのも仕方ない。
また見え透いた薄い笑顔を見破られてしまいそうで、佐伯は終話ボタンに指をかけた。
「じゃあ不二、そろそろ」
『あ、うん。』
「ごめんな、家族が祝ってくれるから」
『大丈夫。僕のことは気にしないで。』
あぁ、また姉さんにケーキ食べられちゃう。 佐伯が言うとタイミングを見計らったように階下から姉の叫び声が聞こえる。
「虎次郎〜、ケーキ食べちゃうよー!?」
「あー、はいはい。今行くよ、姉さん。」
くすくすと不二の笑い声が聞こえる。
『本当にそうみたいだね。』
「ごめんな。」
『うん。またね。』
姉に感謝しながら電話を切る。 俺ズルいな。と佐伯は思わず苦笑いした。
「ねぇケーキー!!!」
「わかってる!!!」
「はーやーくー」
ゴネる姉の声に、佐伯は今年も階段を駆け下りた。
「え…」
扉を開けたリビングには、姉の姿も、両親の姿もなく、代わりに―――…
「来ちゃった。」
瞳をまんまるく見開く佐伯に不二は柔らかく笑いかけた。
「え、なんで…」
「虎次郎も周助くんも、ごゆっくり〜」
玄関先から姉がおどけた風に言うのを聞いて悟る。 図られた。 やがて玄関が閉まる音がして、佐伯は不二に向き直る。
千葉に引っ越してから過ごした成長期。 あっという間に開いた体格差。 自分よりずっと小柄な身体を抱き寄せて、佐伯は栗色の髪に鼻先を埋めた。
「3年も待てなくなっちゃったみたい。」
「うん。」
「君に似て無駄に情熱的になっちゃったかな。」
「また無駄って言う。」
佐伯の腕の中で不二は相変わらずくすくす笑う。
「ねぇ、ケーキ買ってきたよ。一緒に食べよう?」
「うん。」
数か月ぶりの口付けを交わしてから、 不二はケーキ屋の箱を持ってキッチンへ引っ込んでいった。
甘いショートケーキを切り分ける不二の腰に、佐伯は腕を回す。
「ねぇ、サエ。上手く切れないよ。」
「いいよ。」
「もうっ」
歪な切り口に不二は『あーあ』と頬を膨らせた。 佐伯は構わず、更に腰を引き寄せて問う。
「ねぇ、どうしてここにいるの?」
「んー、サエに会いたくなったから?」
「嬉しいけど、そういう意味じゃない。学校は?」
不二はカップに紅茶を注いで答えない。
「ねぇ、もったいつけないで教えてよ。不二。」
「だってそれ言ったら情熱的じゃなくなっちゃうもん。」
「不二、」
「お誕生日、おめでとう。」
恋人になってから初めて、彼の肉声で『おめでとう』を聞いた。 はぐらかされた。 そう分かっていて、佐伯は言った。
「ありがとう。」
(ねぇ、景ちゃん。サエびっくりしてくれるかな?) (俺様が知るわけねぇだろうが。アーン?) (気付いてたらどうしよう。) (ふつう気にしねぇだろ。“都民の日”なんて。) (そうだよね。) (それよりシュウ、なんで去年も行ってやんなかったんだよ?) (だって去年は部活だったんだもの。今年はもう引退したからね。) (おい、お前まさか一年越しで計画してたのか…?) (さあ、なんのこと?) (………。)
HappyBirthday to Saeki. |
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