Q&A Diary | ナノ
 
《いかがわしい買い物をしてしまった自分が許せない日吉若》


「………」


やってしまった。

日吉若21歳。彼の目線の先には小柄なダンボール箱が鎮座していた。
箱の側面には『本からおもちゃまでお買いものは〜』の幅の広いんだか狭いんだかよくわからないキャッチフレーズの某有名ネットショッピングのロゴが描かれていて、後悔を表情に滲ませつつもきちんと正座する日吉にニヤリと不敵な笑みを向けている。

箱の中身は開けなくともわかっている。わかりきっている。


「………」


どうしたって自分はこんなにも破廉恥で不埒極まりないものを購入してしまったのか。
この地域が担当なのであろう、いつもやってくる初老の配達員と長く顔を合わせているのはなんとなく気恥ずかしくて今回は代引きはやめた。
最近持ち始めたばかりのクレジットカードの請求書はダンボール箱の隣にずっと置きっ放しだ。購入した日付を改めて見返してみたら、もう1ヶ月も前のことらしい。


「ハァ〜…」


長い間目を背けてきたダンボール箱を前に、日吉の溜め息は深い。

箱の中身は、いわゆる、オトナのオモチャだ。

清く、正しく、美しく。道場の息子として理想的すぎるほどの彼からすれば、こんなものを購入してしまった自分自身がまず信じられない。
衝動的に、つい、という言い訳が通じれば良いものなのだが、生真面目な日吉にはその、つい、さえもが咎めるべき対象に他ならないから融通が利かない。


(なにやってるんだ…俺は…)


その場の感情に流されてどうするか。
1ヶ月間、目の端にチラリチラリとダンボール箱が映りこむ度に、どうしようもなく湧き出てしまう己の邪念に肩を落とした。そして思う。

もうこれきり。これきりだ。
また同じ失態を犯したなら、次はもういっそ誰か、誰だって構わない。
俺の頭を竹刀でぶん殴ってくれ。

しかし気付けば、箱を見る。肩を落とす。そして自慰に耽る。などというとんでもないスパイラルがこの1ヶ月で完成しているではないか。
そんな彼を竹刀でぶん殴ってくれる察しの良い人物など、もちろん居ない。

ならばいっそ、こんなもの箱ごと捨ててやる!

ついに箱を開けるのとは真逆の方向に決心して、勢いよくダンボール箱を振り向いたのが1時間半前の出来事。


(また、俺は………)


独特の生臭さの中、今日も今日とて日吉若は少し項垂れ気味に正座する。
邪念を振り払うには座禅だ。黙想だ。

意を決してまぶたを落とすも、その裏側には年上の恋人の乱れた姿が浮かび上がるだけでこれといった効果は期待できそうになかった。


(不二さんに、使いたい…)


それなのに、未だにダンボール箱が開けられない。


Q.最近のクレジットカード請求書のなかで、いちばん恥ずかしかった買い物は?
A.バイブ。そんなもの買った自分が信じられない。それを見る度に不二さんをネタに抜いている自分も信じられない。不二さんに申し訳がない。だから、こんなものは早く捨ててしまおうといつも思っているのに未だに捨てられずにいる。そんな自分も信じられない。俺は俺を恥じる。


恥ずかしがってるくせに日記帳にはざっくり書いちゃう日吉くん。