kisaragi/ディスジェ+ガイ/ほのぼの・あまあま

常人ではしないようなことをするのが天才だというけれど、
彼の場合は天才というよりはただの馬鹿なのだと思う。

チョコレート・ディスト!

「ガイ、ガイラルディア!ちょっとこれはどうすればいいんですか?!」
「博士、駄目だってそれじゃ」
「ぎゃー!火がつきましたよ!」
「消して消して!焦げるって」
キッチンから聞こえてくる会話をもう何度聞いただろう。進歩がないのか才能がないのか悲鳴と共に何かの壊れる音が響いてくる。いい加減備品代として請求してやろうかと思いながら割れてしまった皿の片付けをしているガイをちらりと見てため息をついた。
「ガイ、飽きませんか?ソレに料理なんて教えても無駄ですよ。どうせなら料理を作る譜業でも作ったらどうですか?そのほうが早いのでは?」
「ジェイド、煩いですよ!これは手作りでなければ意味がないんです。それに私は料理が出来ないわけではありません。ただ、この「分量通りに作れないお菓子」というジャンルが苦手なだけなんですよっ」
料理の本の通りに作ると甘くなりすぎるせいか、お菓子は目分量で作ることが多いのだがそれがどうも出来ないらしい。きっちりとグラム数から何から計って完璧に作るものなら器用に作り上げるのに。そんなアンバランスさにクスリと笑ってリビングへと戻った。何を思ったのか一週間前くらいからサフィールがガイを巻き込んでキッチンを戦場と化している。大量のチョコレートを買い込んできてそれを溶かして何かを作ろうとしているらしい。甘ったるいチョコレートの香りが染み付いてしまったリビングは窓を開けてもそう簡単に匂いが取れないだろう。規模が違うのはそのために大型の冷凍庫を作り上げているあたりだろうか。一体何がしたいのやら。
「どうぞ」
と言ってガイが入れたての紅茶を持ってきてくれた。ふわりと立つ香気からもチョコレートの香りがする気がしてしまうが一口味わえば爽やかな柑橘系の味が口いっぱいに広がった。
「ガイ、いい加減アレの相手をするのもやめなさい?陛下の命令というわけでもないのでしょう?」
「ん?まあそうだけど。でもなんだかんだで楽しいしなぁ。それに代わりに音機関について勉強させてもらってるし」
うきうきと指先を動かして空想上の音機関でも弄っているのだろう。毎日朝から晩まで入り浸っている暇があるなら仕事の一つも押し付けてやりたい気分になる。
「お暇そうですね、ガイラルディア伯爵様?」
「こんな時だけそういう呼び方するなよ。何だ、ジェイド妬いてるのかい?」
「誰が、誰にですかねぇ?」
やれやれと手を広げてみせる。付き合いが長くなったせいかガイが最近調子に乗っている気がする。この辺りで一度自分の立場というものを思い知らせてやらなければならないだろうか。
「ガイラルディア!ちょっと来てください!ほら、いい感じになってきたんじゃないですか?」
サフィールがキッチンから嬉しそうにガイを呼ぶ。「ああ、ちょっと待ってくれ」と声をかけてガイが戻っていく。その後ろ姿を眺めながらやれやれと手元に持ってきていた本を手に取った。本に集中している時は周りの「害音」は聞こえなくなるので、ゆっくりと読みすすめていく。一冊読み終わる頃にはキッチンからは姿が消えていた。代わりに地下の研究室の方からどたんばたんと何かをいじる音が聞こえてくるので今度はあっちへと戦場を移したのだろう。
「全く仲のよろしいことで」
口に出した言葉と共に表情が曇った事に気付いた。妬いてるのか?と聞かれたその言葉のように胸の奥にずんと存在する重い感情が気持ちが悪い。サフィールが無防備に浮かべている笑顔に腹が立ってしまう。誰にでもそんな笑顔を見せるのかと何時ものように蹴り上げて泣かせてやっても満足しないかもしれない。綺麗に片付けられたキッチンへと向かいコップに水を汲んで飲み干す。喉を通り抜ける冷たさがこのもやもやも流してくれればいいのに。

仕事の忙しさで数日家へ戻ることが出来ない日々が続いた。夏のお祭りを開催しようという皇帝の言葉に従って街は準備を始めている。至る所に取り付けられたさまざまな色の音素灯。願いを書いて空に祈るという伝承の通りに子供達はきゃいきゃいと沸き立っている。それぞれの家の庭から覗く願いの札にはささやかな、だけど精一杯の願いが込められていてきっとこっそりとお忍びで一つ一つを見て顔を綻ばせる陛下の姿を思い描いた。サフィールは祭りの最後に打ち上げられるという花火の製作に追われているらしい。「何で私が」と文句を随分言っていたが、陛下が何事か囁いただけで大人しく従ったので何らかの暗黙の了解があったのだろう。家のほうの研究室ではなく、軍部の研究所を使って大掛かりな装置を作っていたので暫くはそこから出てこないだろう。久しぶりに帰る家の空気からはチョコレートの香りが消えていて、丁寧に洗われて片付けられた調理器具が整然と並べられていた。一体何がしたかったのだろうかと冷凍庫を覗くとそこには小さく纏められてラッピングされたチョコレートの山。一口大のチョコレートが綺麗なフィルムに包まれてびっちりと並べられて
いる。
「こんなものを作って一体何がしたいんですかねぇ・・・」
サフィールのすることなので考えても無駄だろうと判断して扉を閉める。振り返る家の中がやけに静かで何故か違和感を覚えてしまった。こんなにも自分の生活の中に他人が入り込んでくることなど想像もしていなかったのに。いつもぎゃーぎゃーと煩いサフィールでも居なければ寂しいと思ってしまうほどに彼は自分の心にこんなにも爪跡を残しているのだと感じさせられる。
「ただいまぁ」
情けない声が玄関に響く。サフィールが戻ってきたらしい。覗きに行ってやると手には大きな箱のようなものを抱えていて前がよく見えないのだろう。ふらふらと覚束ない足元でよく見ると顔も赤い。酔っているのだろうか眠たそうに瞳を瞬かせている。
「遅かったですね。陛下に付き合わされたのですか?」
「聞いてくださいよジェイド!あの男は本当に忌々しい!徹夜で仕上げた音機関を渡したらすぐ帰るつもりだったのに無理やり引っ張っていって呑まされたんです!」
ひどいと思いませんか!と息巻く様に言いながらも呼吸がしんどいのかぱたりと黙り込む。手に持っていた荷物を引き取ってやってリビングへと運ぶ。見た目よりも軽いそれをソファの傍に下ろして座り込んだサフィールに水を入れてやる。
「ほら、しっかりしなさい。酒如きに呑まれるなんて情けない」
「うぅ……僕がお酒に強くないのジェイドは知ってるだろ」
「だったらそんなになるまで呑まなければいいでしょう」
「呑んだんじゃないよ、呑まされたんだ」
ぶーと口元を膨らませて文句を言う。子供のようなその態度に思わず笑ってしまう。
「で、それは一体何なんですか?」
「ああ、今度の花火の起動装置と後はいろいろ。ピオニーに持たされたお酒の残りとかそんなの。ジェイドによろしく伝えてくれって言われた」
がさごそと箱を開けて中身を探っているらしい。幾つもの小さな瓶をテーブルの上に乗せていく。普段では手に入らないような高級なお酒の数々が並んでいって、相変わらず贅沢な酒をと陛下の寝室の中に取り付けられている酒棚を思い浮かべた。一通り出し終わって「ジェイドにあげるってさー」と言いながらサフィールがソファに沈む。眠いのだろう、ふにゃりと猫のように丸くなって気持ちがよさそうに眼を閉じている。
「寝るのならば風呂に入ってから寝なさい」
「んー、ちょっとだけ。ジェイド、こっち」
ぱたぱたと手を振られて近づくと、にぃと嬉しそうに微笑まれて腕を引かれた。サフィールの上に乗るような形で抱きしめられる。
「ジェイド、いい匂いがする」
胸元に顔を押し付けるようにしてふんわりと腰に手を回され、見上げる視線が絡み合う。優しいけれど冷たさを孕んだその視線が好きで、見つめられると心を乱される。もっと強い力で縛って翻弄させてくれるのならばこんなにも胸を騒がせる感情を抱かなくても済んだのに。伸ばされた手が髪を撫でる。細くて長い指が何度も何度も髪を梳いていく度にぞくりと熱が身体を満たしていく。触れ合っている胸からドキドキと高鳴る鼓動が伝わって、それに気付いたのかサフィールが微笑む。
「ジェイド、寂しかった?」
「何で私が寂しがらなければならないんですか。一人でゆっくりと過ごさせて頂いてますよ。これでも暇じゃないんでね」
「素直じゃないなぁ……」
まるで猫がじゃれるように首筋に口付けられて、これ以上はと引き離そうとしたのだが限界だったのかそのままの体勢で眠ってしまった。
「サフィール?」
呼んでみても起きる様子も無い。眼鏡を外してやってテーブルに置く。まるで息をしていないほどに静かに眠りに落ちる彼の寝顔を眺めながら先ほど彼がやっていたようにサフィールの銀髪を梳いてやる。
「素直、ねぇ……。貴方が居ないと寂しいなんて誰が言うと思うんですかね」
これでもツンデレなんですよぉ、と心の中だけで突っ込みを入れて薄い毛布をかけてやる。明日の夜まではまだまだ時間があるからゆっくりと寝られるだろう。自分にも薄く伝わってきた眠気を噛み殺してもう少しだけ、とサフィールの額に口付けた。

ばたばたと階下から聞こえてくる音で眼が覚めた。サフィールが眼を覚ましたのだろうか、何かを開けたり締めたりする音が響いている。簡単に着替えて身支度を済ませてから下に降りると昨晩持って帰ってきた大きな箱のなかに以前作っていたチョコレートを詰め込んでいる。
「おはようございます」
「あ、ジェイドおはようございます。すみませんねバタバタして」
「いいえぇ。一体何をやっているのか聞いても?」
「んー……ジェイドは今夜のお祭りには参加するんでしたっけ?」
「祭り?ああ、今日でしたか。特に予定はありませんが?」
「じゃあ今日の夜、花火が上がる頃に庭で待っててくれますか?」
「はぁ、別に構いませんが」
全部詰め終わったのか、箱を抱えてばたばたと玄関から出て行く。
「約束ですよ!絶対に待っていてくださいね!」
そう言い残して研究所の方へと向かってよたよたと走っていく。その後姿を見送って部屋に戻り今日の予定を確認する。夜まで特に急ぎの用事は無い。どうしようかと思っていると玄関を叩く音がした。
「やあ、おはよう」
「おはようございます。サフィールなら先ほど研究所のほうへ向かいましたよ」
「ああ、博士は今日の準備があるって言ってたからなぁ。いや、今日は旦那の方に用事」
「はあ。何か陛下からの言伝でも?」
「暇だったら祭りを見に行かないかと誘おうと思ってさ。結構出店なんかも出てるし、アンタは誘わないと見に行ったりしないだろ?」
「まあ、そうですね。ふむ……まあいいでしょう。用意するので待っていて下さい」
ガイを玄関で待たせたまま再び自室へと戻って着替えなおす。外に出るのに必要なものだけ持って再び戻ると怪訝な顔をされた。
「アンタ……なんで軍服なんだよ」
「いけませんか?まあ何かあった時のためにこっちの方が便利かと」
「休暇なんだから私服でいいんじゃないのか?」
「まあいいじゃないですか。ほら、行きますよ」
はいはい、と促して玄関に鍵をかけて歩き出す。いつもこの日は雨が多かったグランコクマも今日は綺麗に晴れ渡っている。この調子なら夜には綺麗な夜空にかかる星屑の川を見ることが出来るかもしれない。さぞや花火がよく映えるだろうと心が躍っていることに気が付いた。色とりどりに飾りつけられた商店街の店先には今日の祭りを目当てにやってきた観光客が溢れている。何時もより活気だった街中の端々にさりげなく配置された兵がこちらを見かけて頭を下げてくる。
「だから軍服で来なければよかったのに」
「別にいいじゃないですか。ほら」
言って徐に槍を抜き放ち走り去ろうとした男の目の前へと投げる。
「はいはーい。盗みはいけませんねぇ」
集まってきた憲兵に引き渡してガイのほうを振り向く。
「ね、意味があったでしょう。毎年この時期は面倒なんですよ。こういう輩が増えるのでね」
さあ行きましょうとガイを引っ張って噴水の方へと歩く。メイン広場となっている城の前の噴水広場は何かのイベントをやっているのか人だかりが出来ている。子供連れが多いということはショーなのだろうか。その中で明らかに見覚えのある金髪の変装の男を発見して踵を返した。
「ガイ、見てはいけないものが居ました。速攻引き返しましょう」
そういえばアビスマンを呼ぶとかどうとか陛下が言っていた気がする。執務の合間に聞き流していたのだが本当に開催したとは。子供達に混ざってわいわいと喜んでいるのはいいのだが今日の仕事はちゃんと完了しているのだろうか。気付かなかったふりをして静かに人ごみから離れ、少し疲れてしまったのか一本路地を入ったところにある小さな喫茶店で一息つくことにした。
オープンカフェになっているので外の席を選んで席につく。どうぞ、と影のほうを譲ってくれる辺りがガイの優しさだ。
「旦那、砂漠でも日焼けしなかったよなぁ。肌真っ白で。本当に人間なのかい?」
「さぁ、どうでしょうね。子供の頃は悪魔だと言われてましたし、アニスに至っては人の血を吸って生きてるなんて言ってましたが」「アンタが言うと本当っぽく聞こえるから怖いな」
「ところでガイ、サフィールが大量にチョコレートを作っていたようですが、アレについて貴方は何か知ってますか?」
「ああ、博士は旦那に何も言ってないんだ。じゃあ俺が言うわけにはいかないなぁ」
ニコニコと嬉しそうにガイが微笑む。運ばれてきた冷たいジュースを片手に持って今日は暑いよなぁなんて空を見上げている。
「まあいいですけどね。どうせ今日の祭りの何処かで使うんでしょう」
「まぁ、そうだけど。きっと驚くと思う。博士は天才なんだなぁって改めて思い知らされたよ」
「キッチンをチョコレートだらけにすることの何処が天才なのかは知りませんが、まあ今日分かるならいいにしておきましょうか」
「ああ。だけど博士って本当発想が若いというか何というか……」
「お子様だとはっきり言ったらどうですか?」
「いやぁ、さすがにそれは……」
ははは、と乾いた笑いをしながら視線を逸らす。そろそろ行こうかと促されて席を立ち先ほどは行かなかった通りを見て回る。
「旦那は何か願い事はしたのかい?」
「貴方はやったのですか?」
飾られている札を軽く引っ張ってそこに書いてある字を辿る。小さな子供の幼いたどたどしい字で願われた大きな願いにガイの頬が綻ぶ。
「陛下がやれって札を渡してきたからなぁ。一応。陛下の部屋に飾られているんじゃないかなぁ。旦那も渡されたんじゃなかったのか?」
「ああ、何かそういえば渡された気もしましたねぇ。仕事中に抜け出して遊んでる人間の言う事なんて聞きませんと追い出した覚えならありますが」
「相変わらず鬼畜だなぁ。いいじゃないか願い事くらい書いても」
「そんな星に願うような事なんて私にはありませんよ。ああ、陛下が真面目に働いてくれますようにとでも書けばよかったですかね。失敗しました」
「いや……さすがにそれも星に願うような事じゃないだろ」
くすりと笑って歩を進める。叶うような願い事ならば自分で叶えればいい。叶わないような願い事は願った所で無駄だ。そんな現実主義の自分の頭を陛下辺りはつまらない、と称するのだろう。
「博士も何か願い事したのかな」
「サフィールは私とこういう部分は似てますからねぇ。願いなんて自分で叶えます!とか言いながらそれでも何か書いたんじゃないですか」
あれでいてこういうお祭りが大好きな性分だから、きっと文句を言いながらも願い事を必死に考えて書いたのだろう。何を書いたのかちょっと気になってしまう。陛下の部屋に吊るしてあるということはきっと見る機会もあるだろう。
ゆっくりと見て回ったこともあってだんだんと日が翳ってきた。そろそろ戻らなければ。サフィールとの約束があることをガイに告げ家へと向かってゆっくりと歩く。夏の風が纏わりついて温度の割には涼しいと思っていたが、かすかに湿気を孕んでいるのかじんわりと汗をかいてくる。帰宅して一度シャワーを浴びて涼しい服装へと着替える。庭にはサフィールが取り付けたのかパラソルとベンチが用意されていてそこで座って待てと言わんがばかりに存在を主張していた。レムの光が傾いて空を茜色に染める。輝きは空を彩り一瞬強く光ってそして静かに藍色の闇へと犯されていく。小さく瞬く星達がまるで泳ぐ魚が水を与えられたように明るく煌いている。星の川が星座を横切るように今日ははっきりと見える。その空の灯へ向けて地上からは餞のように華が次々と飛ばされた。原色の光の華は藍色の夜空をキャンバスに自由奔放に駆け巡る。どぉん、という音にあわせて人々の歓声が地に響く。暫くすると子供向けなのだろうか、見覚えのあるトクナガやミュウの顔を模した花火が上がり始めた。アビスマンに出てくるキャラクターなども上がっている。子供達の沸き立つ高い声が上がる。そして花火のクライマックスには真っ白に流れ落ちるような柳のような花火があがり人々は拍手でそれを歓待した。これで最後と思っていたらずん、と今までで一番大きな揺れと共に爆音が響く。空を見上げた人々の下に振ってきたのは落下傘についた小さなチョコレート。全員に行き渡るような数はないだろうが手に入れた子供達が喜びの声をあげるのがココまで響いてくる。ふわり、と自分の元へも飛んできた落下傘を手にとってチョコレートの包みを開けると小さなハート型のチョコレート。
「全く、何を思ってこんな物を作っていたのかと思えば」
ぽい、と口の中にほおり込んで噛み砕くとほろ苦い、だけど優しい味が口の中に広がる。がりがりと噛み砕いて飲み込んでそういえば冷凍庫の中には丸めたチョコレートしかなかったはずでは、と記憶を辿った。
「ジェイド!」
走ってきたのかサフィールが息を切らせて戻ってきた。
「見ましたか?花火!綺麗だったでしょう」
「貴方にしては上出来ですね」
テーブルの上に広げられていた包み紙を目にしてサフィールがもじもじと口を開く。
「あ、ジェイドにちゃんと届いたんだ。それ、中身、見た?」
区切るようにドキドキしながらサフィールが呟くようにして言う。
「食べ物と判断したのでさっさと口に入れてしまいましたからねぇ。しっかりとは見てません」
「食べたんだ。ジェイド」
「食べれるもの以外を国の民に配ったとしたら即行死刑でしょうね」
「どう、だった?」
「まあ悪くはないんじゃないですか?私はもう少し甘いほうが好みですが」
「そっか」
満足したように夜空を見上げながらサフィールが静かに微笑む。そんな顔をされると調子が狂ってしまいそうだ。何処か遠い存在のようで触れたら消えてしまうんじゃないかと思って。無意識に腕が動いてサフィールを引き寄せていた。
「ジェイド?」
驚く顔に無理やり唇を押し付ける。まだ口の中に広がるチョコレートの味がサフィールのキスと混ざって甘く甘く溶けそうになる。
「次に作るときはもっと甘いものがいいです」
「ん……分かった」再び今度はサフィールのほうからキスを仕掛けてくる。チョコレートよりもまだ甘いキスの感触に溶かされて、夜空を見るのも忘れてサフィールの笑顔だけを見つめていた。


陛下の寝室に飾られた願いの札の一つに小さい文字で綴られている彼の想い。
「ジェイドに自分の心が届きますように」
それをジェイドが知るのはもう少し、後の話。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -