「なぁヨハン、今日こそデュエルしてくれるよな?」
「あー……ごめん。ちょっと今日も忙しくて…」
「今日も?毎日何してるんだよ〜!」
「アークティック校に送るレポートとか、色々あるんだよ!」
「そんなのデュエルの後でいいだろー?」
「そうもいかないよ。留学させてもらってる身だし……。それに十代とデュエルした後ってだいたい疲れてすぐ寝ちゃうからレポートなんて出来やしない」
「あー……」
確かに。ヨハンとデュエルすると夢中になってデュエルしてしまうからいつの間にか遅い時間になっている。
そして結局そのまま眠ってしまって……
なんてことがよくある。よくある、っていうより常にこのパターンな気がするけど。
「そういうわけだから、ごめんな!」
「わかった……」
ブルー寮へ向かって駈けて行くヨハンを見送りながら俺は唇を尖らせた。
ここ最近、ヨハンは何だか素っ気ない。放課後はデュエルしてくれなくなったし、よくレイと一緒にいるのを見かける。
昼休みにもレイと一緒にお昼ご飯を食べているようで、よくレイが教室に迎えに来る。
普通ヨハンが迎えに行くんじゃないかと思うけど、ヨハンは方向音痴だ。迷うに違いない。
だからレイが迎えに来ているのだろう。
そしてそのまま何処かに行ってしまう。何処に行くのか訊いてみても、いつも曖昧な返事をされて流される。
そんな二人のことをみんなも知っていて、クラスの一部ではヨハンとレイが付き合っているんじゃないか?なんて噂もある。
そんなわけない、と思ったけど付き合ってるとしたら全部納得がいく。
ヨハンとレイが一緒にいる理由も、放課後にデュエルが出来ない理由も。
俺にはよく分からないけど、恋人が出来るとその人とずーっと一緒にいたいと思うらしいのだ。
だから、放課後にも二人で一緒に………
「わわっ……違う違う…!」
二人が抱き合ったり、キスしてるのを想像したら何だか恥ずかしくなった。頭を横に振ってその想像を振り払う。
それに何だか気分も落ち込んできてしまった。こんなこと、想像するべきじゃないんだ。
それに、二人が付き合ってようと関係ない。俺はヨハンとデュエルが出来なくなったのが……ちょっと、残念なだけで。
結局、放課後は遊戯さんのDVDを見て過ごすことにした。
やっぱり遊戯さんは強くてかっこいい!
「なぁヨハン!あそこの遊戯さんの………あっ……」
ヨハンは今はいないのだ。なのに呼んでしまうなんて……こんなの、まるで……
「クリクリ〜……」
俺のことが心配になったのか、ハネクリボーが出てきて寄り添ってくれる。
そっと抱きしめるようにするとハネクリボーは更にぎゅう、と俺に抱き着くような仕草をした。
「そうだな!俺にはお前がいるもんな!!」
笑顔で言うと、ハネクリボーは嬉しそうに飛び回った。
けど俺は、何だか、空しい。
ふと時計を見たら夕方の6時を指していてもう夕飯の時間だった。早く行かないと食べ損ねてしまう。
そう思って、食堂に向かうことにした。部屋を出てトントン、と階段を降りて行くと食堂からヨハンが出てくるのが見えた。
レポートは終わったんだろうか。もしそれならデュエルを頼もう!
そう思っていたけど、ヨハンがレイの部屋のドアをノックしたのを見て、慌てて物陰に隠れた。
何だか見てはいけないものを、見たような気がしたから。
こっそり覗いて見たらヨハンはそのままレイの部屋へと入って行った。
その瞬間安堵してホッと息を吐いたものの、今度は苦しくなってしまう。
そうだ、レポートをすると言っていたヨハンはレイの部屋へ遊びに行っていたのだ。
ということはレポートは、嘘で……
「ヨハンは俺と、会いたくなかった……?」
口に出して言ったことで更に胸が苦しくなった。ぶわっと訳の分からない汗や涙やらが一気に噴き出して俺の顔をぐしゃぐしゃに汚す。
何だこれ何だこれ何だこれ!!
胸が張り裂けそうに痛い!!苦しい!!!
息もだんだんしづらくなって、俺は困ってしまう。
とにかく部屋に戻ろうと何とか階段を登る。ぼろぼろと落ちる涙が階段に落ちて弾け飛んだ。
部屋に入って靴を脱ぐと床に倒れこむ。こんなこと、今までなったことが無い。
苦しい!胸が痛い!苦しい!!
俺は必死に呼吸をしようとするけどそれは泣き声に変わってしまう。
声をあげて泣く俺は、とんでもなくみっともなくて恥ずかしい気がして、俺は毛布をかぶった。
かぶっても、何も変わらなかったが。
しばらく泣き続けた俺は、涙が引いた時にようやくかぶっていた毛布から出た。部屋にある簡易キッチンでコップに水を注いで飲んだ。飲み干してふぅ……と息を吐くとようやく今までの気持ちが落ち着いてきた。
制服を脱いで、そのままベッドに潜りこむ。その隣にはひょっこりハネクリボーが入ってきて、心配させていたんだな、と思った。
「ごめんな、ハネクリボー。心配かけて。もう、大丈夫だからさ!」
胸はまだ痛いしモヤモヤするけど、さっきみたいに息が苦しくなることは無くなった。
だからそう、きっと大丈夫だ。言い聞かせるように言うと、ハネクリボーはまた俺に寄り添う。
感じないはずの暖かさを感じて、俺はそっと目を閉じたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、パーン!パーン!!という大きな音で俺は目が覚めた。
火薬みたいな匂いがして、俺は慌てて起き上がる。
そこにはヨハン、レイ、万丈目、翔、剣山、明日香、ジム、カレンがいた。狭い部屋にみっちり入って、そして鳴らしたのだろう――クラッカーを手にしていた。
「誕生日おめでとう、十代!!」
ヨハンの言った意味が、一瞬わからなかった。
誕…生日……?
ぼんやりしたままの俺に、万丈目が「まだ寝ぼけているのか?さっさとシャキッとしろ!」って言ってきたけど、そんなことは気にならなかった。
昨日とは違う、胸の痛さを感じて俺はまた泣いた。
「え!?十代!どうしたんだよ!」
みんな驚いて慌てるから、止めないと、と思ってみるけどうまくいかなかった。
「ごめ……っ……嬉しくて」
それだけを何とか伝えると、みんな安心した顔で俺に笑いかけてくれた。
それにホッとして、また涙が流れた。
「そんなに泣かないで、十代!」
「smileだぜ、十代」
そう言ってジムが持ってきたのは大きなケーキだった。そのケーキにはたくさんの花火が刺さっていて、バチバチと火花が散っている。
それをベッドに持ってくるのだから堪らない。
「わ、わ、ちょ……危なっ」
もちろん、毛布に引火した。
きゃあ!とレイと明日香の悲鳴があがる。そして火がついた毛布はシーツにまで引火をする。
「みんなどくザウルス!」
剣山の声にみんなが避けると、バケツに汲んだ水をベッドへとかけた。
じゅう……と音を立てて消えた火にみんなが安堵の息を吐く。
結局、ぼや騒ぎのあと俺の誕生日パーティーは広いレイの部屋で行われたのだった。
火事でベッドが使えなくなってしまった為に、俺はヨハンの部屋に泊まることになった。
そこで俺はようやく、気になっていたことを訊いた。もちろん、昨日のことだ。
「なぁヨハン。昨日さ、レポートをやるって言ってたよな」
「………うん」
「じゃあ、その……なんでレイの部屋に…」
「あー……見られてたのか」
「あっ、ごめん!偶然見ちゃって……」
「いや、嘘吐いてごめんな。デュエルも断ってばっかだったし……」
ベッドに座っていた俺の隣にヨハンが座る。ぐら、と体が揺れた。
「しばらくの間ずっと十代の誕生日パーティーの用意をしてたんだ。レイの部屋を使うし、ほら、あいつ料理も得意だからさ……中心になってたから相談にのってもらったりしてたんだ」
「じゃあ……付き合って、ない…?」
「はぁ?まさか十代、その噂信じてたのか?」
「だ、だって…!よく一緒にいたし、昨日のを見たら……」
ヨハンはあはははは!と笑ってぽんぽん、と頭を撫でた。
それが何だかすごくムカついて、思わずムスッとした表情になってしまう。
「俺は女の子と付き合うより十代とデュエルしてる方がずっと楽しいぜ。だから心配すんなって!」
ヨハンはそう言ってぎゅっ、と俺を抱き締めた。
俺を不安にさせない為にやってくれてるんだろうけど、何だか、緊張する。
ようやく離されると逆に何だかホッとしてしまった。
「ハッピーバースデー、十代。君が生まれてきてくれて、出会えて嬉しいよ」
ヨハンがにっこり笑って言った1秒後、俺の心臓は跳ねて、時計の針が12をさした。
こんな想い、知らなかった
(なるほど、世界じゃコレを恋と呼ぶのか)